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気持ちの良い日差しがレースのカーテンを通り抜けて、糸川の黒髪を艶やかに照らす。

午前九時半。

赤井は103号室にいるAの手を握り締めたまま、ただぼうっと彼女の上下する布を見ていた。


フライトの時間は刻一刻と迫っている。先程から後ろでジョディがちらちらと腕時計を確認しながら、赤井の背中を見ているのを彼自身知っているが、知らんぷり続ける。


「ねえシュウ。またくればいいじゃない。ね? 今日はもう行かなくちゃ」
「…………」


ジョディはこの言葉を何度囁いたか知れない。そして彼の口が開くことも無かった。

フライトまであと一時間。ここから空港まで時間がかかるのに、あと五分でもしたらいよいよ乗り遅れてしまう。


「シュウ、いい加減にして。Aも怒るわよ」
「…………」
「シュウッ!!」


少し開いた窓から、さらさらと冬の訪れを囁く風が舞い込み、カーテンを優しげに撫でた。ともに、Aの髪も柔らかにそよぐ。


「…………」


赤井は、やっと握っていた糸川の手を離した。そっと額に口づけ、涙をひとつ零す。

ぴたん、と糸川の頬に着地した涙はそのまま、彼女の流した涙のように頬を伝って髪に吸い込まれる。


以来、前を向いて歩くことをしなくなった赤井は、ジョディの後ろを彷徨うようについていきながら、病室のドアに向かった。足取りはやはり遅い。


「シュウ、早く」


廊下の向こうから、ザックの声が聞こえる。随分荒々しい声で文句を言っているようだ。文句の理由は当然のことだが。

ジョディが開けっ放しにした半開きの引き戸に手をかけて、赤井は見つめた床にあるレールを睨んだ。お前を踏み越えれば、もうここへ戻ってくることも難しくなる。
行きたくない。行きたくない。なんならもうFBIをやめよう。そうすれば何一つ問題ない。



ジョディの焦れ苛立つ声に思わず耳を塞いだ、その時。





「……しゅ、い、さん」



聞き逃す訳が無い。願っていたばかりの声が聞こえた。

まさか幻聴か。赤井は諦め半分、振り返る。だが、途端、目を見開く。


「い、かない、で」


震える足でたどり着き、震える手でその華奢な手を握った。

薄く開いた瞼から見える赤銅色に、赤井は泣き叫ぶ。


「A、A」
「は、は。ひど、い、かお」
「A、A」
「しゅいちさん」
「A」



「ただ、いま」
「おかえり、A」

 

ぴたん。涙がひとつぶ、こぼれてきえた。
 
END

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ぱーぷる姫(プロフ) - すみません、下のコメントで気が付きました。気づくと鳥肌です!また1から読み直します! (2022年8月25日 0時) (レス) id: be661beda4 (このIDを非表示/違反報告)
もちもち - 最高でした。言葉選びとかセンスがツボに刺さりまくりました。赤井と糸川で「赤い糸」になるのも気づいた時に鳥肌止まりませんでした。とにかく最高でした。 (2021年5月5日 1時) (レス) id: b3862cde2f (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 続編お願いします(T_T) (2020年8月8日 13時) (レス) id: e826140184 (このIDを非表示/違反報告)
vm - とても、すてきな言葉のセンスから見える世界観がとっても、大好きです!なかなか赤井落ちはないので、ありがとうございました! (2020年5月1日 0時) (レス) id: d0a5fbaba4 (このIDを非表示/違反報告)
syubyi - いい、、すごく良かったです、、、続きを、、後日談的な続きを、、 (2020年4月11日 14時) (レス) id: 4a176e1186 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:◎たなは◎ | 作成日時:2017年4月4日 23時

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