検索窓
今日:392 hit、昨日:302 hit、合計:1,021,197 hit

48 ページ48

糸川は揺れる地面の中、二階から四階へ駆け上がった。

崩れかけた中央処理施設に飛び込むと、カウントダウンを続ける爆弾は一分を切っていた。よかった、間に合った。


赤井を突っ込んだ場所は、緊急避難室。火災や地震の際に備蓄品を入れておく、一番頑丈に作られた室内だ。

施錠は最終段階のレベル5状態。このレベルでは施錠は内側からではなく外側からしかできないようになっている。爆弾を設置してくれた犯人がレベル5まで上げてくれて置いたのだから、嫌味としか言えないが、彼が生き残る最後の手段を使えたのだ。感謝せねばならないだろう。

最終施錠ができるのは、この中央処理施設。壁に設置された隠し戸の中に眠っているハンドルを回し、ボタンを押すと完了できる。

糸川は飛びつくように隠し戸の11桁暗証番号を打ち込み、ハンドルを回してボタンを叩いた。

保護完了の音声が流れ、糸川がホッとしたのも束の間。

背後から聞こえたのは、死の宣告。無慈悲な電子音。地鳴りに似た轟音。揺れる床。崩れる天井。

鼻を突く、土埃。


糸川はその場に蹲った。もらった靴を逃すまいと、膝を抱えて。





 
刹那、地響きと共に、中央処理施設は粉々に粉砕され、崩れ、潰れた。


最終爆発は、その二機にて終了した。

爆発を終えた瓦礫の下から聞こえたのは、彼女のインカムから流れる、静寂の中に稲妻が突き刺さるような、引きつった絶叫だった。




 
■□■□■□■□■




 
照明がぱっとついた。目が慣れるまでに時間は要らない。赤井の目は訓練でそういったことに慣らされているのだ。

だが、見たくない光景だった。目の前に広がるのは、仲間の裏切りでもなく、それは救済の証。

所狭しと並べられた、緊急物資。簡易毛布に携帯食料、水分。

心臓に氷水をかけられたように、固まる。喉が引き攣り、呼吸が苦しい。Aは、どこに?

まるで問いへ答えるように、地面が大きく揺れた。地鳴りと共に、赤井も一緒に部屋の隅から隅へ一直線に転がる。

揺れが静かになった時、頭上に設置されたマイクから流れてきたのは、静かな水滴の音だった。

ぴたん、ぴたん、ぴたん。

誤作動か何かで処理施設から繋がった放送が、水滴の音だけを静かに、ただ静寂を際立たせ、赤井の精神を蝕むように、一滴一滴、流れ続けた。


ぴたん、ぴたん、ぴたん。


赤井は思う。

あの部屋に、水はあっただろうか。

ではこの水滴は……。


 
ぴたん、ぴたん、ぴたん。

49→←47



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (955 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
1239人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

ぱーぷる姫(プロフ) - すみません、下のコメントで気が付きました。気づくと鳥肌です!また1から読み直します! (2022年8月25日 0時) (レス) id: be661beda4 (このIDを非表示/違反報告)
もちもち - 最高でした。言葉選びとかセンスがツボに刺さりまくりました。赤井と糸川で「赤い糸」になるのも気づいた時に鳥肌止まりませんでした。とにかく最高でした。 (2021年5月5日 1時) (レス) id: b3862cde2f (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 続編お願いします(T_T) (2020年8月8日 13時) (レス) id: e826140184 (このIDを非表示/違反報告)
vm - とても、すてきな言葉のセンスから見える世界観がとっても、大好きです!なかなか赤井落ちはないので、ありがとうございました! (2020年5月1日 0時) (レス) id: d0a5fbaba4 (このIDを非表示/違反報告)
syubyi - いい、、すごく良かったです、、、続きを、、後日談的な続きを、、 (2020年4月11日 14時) (レス) id: 4a176e1186 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:◎たなは◎ | 作成日時:2017年4月4日 23時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。