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暗室の中、カタカタとタイプ音が際立っていた。

時折ヴーンと鳴く機械音と、点滅する電源ランプ。あたりを薄く照らすモニタのブルーライト。


壁一面に設置されたモニタに映し出された、数名の人間。角度や画質がバラバラだったそれらが、パズルを組み立てるような半角英数の羅列に沿って、顔判別可能なまでに修正される。

国籍も人種もバラバラの男性数名。
名前、性別、生年月日、血液型、住所に過去まで。一覧が別ウィンドウで表示され、それを赤銅色が追いかける。

小刻みに震える黒目が瞬きを終えた時、ふとドアがノックされた。


「管理官。そろそろおやすみになってください」
「あぁ、風見君。お疲れ。今何時?」


手首に絡まる腕時計に目を落とすのさえ億劫で、糸川は明るい廊下に背を向けた男、風見に尋ねれば、男は彼の腕についた時計を見ることなく「十時四十三分です」と正確な答えを放った。

ちなみに、十時は午後である。

糸川は座っていた椅子の背もたれに埋もれた。大きなそのキャスターチェアは、革張りの大きな椅子で、糸川が座ると彼女の体をすっぽりと包むくらいのサイズがある。

度々この椅子は彼女のベッドとしても活用され、その都度風見に起こされる。


風見は後ろ手にドアを閉めるとモニタに歩み寄った。

ぎぃ、と椅子が軋む。糸川の足先が床を小さくけって、椅子をクルクル子供のように回して遊ぶ。


「これは」
「残党さ」


ぎぃ、ぎぃ。軋む椅子と、回る女。彼女の口からはまるで今日の天気でも告げられるような気軽さで、組織末端の男の詳細情報が紡がれた。


「末端の末端だよ。この前釣れたのがね」
興新団(こうしんだん)、ですか」
「そう。そこの末端。興新団は黒の組織の所謂、下請けみたいなところ」


回る椅子が、ぴったりとモニタの前で静止した。
風見はモニタに移していた目を、椅子に座る女性に向けた。

彼女の目線はモニタを見つめている。その瞳に温度は無い。

つぅ、と目線がモニタから離れ、風見に向けられる。
漠然とした目で風見は糸川を見ていたため、向けられた目に気づいたのは数秒後だった。


「……そう怖い顔をしないで」
「あ……いえ」


糸川は椅子から立ち上がると、風見の肩を叩いて隣を通り去った。


「戦が始まるよ。君も、腹を括っておいて」


高らかな靴の音が室内を埋め尽くし、最後にドアが閉まる音と静寂を置いて、彼女は消えた。

風見は振り返る。嘲笑する機械音が男の背中をすすいだ。

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ぱーぷる姫(プロフ) - すみません、下のコメントで気が付きました。気づくと鳥肌です!また1から読み直します! (2022年8月25日 0時) (レス) id: be661beda4 (このIDを非表示/違反報告)
もちもち - 最高でした。言葉選びとかセンスがツボに刺さりまくりました。赤井と糸川で「赤い糸」になるのも気づいた時に鳥肌止まりませんでした。とにかく最高でした。 (2021年5月5日 1時) (レス) id: b3862cde2f (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 続編お願いします(T_T) (2020年8月8日 13時) (レス) id: e826140184 (このIDを非表示/違反報告)
vm - とても、すてきな言葉のセンスから見える世界観がとっても、大好きです!なかなか赤井落ちはないので、ありがとうございました! (2020年5月1日 0時) (レス) id: d0a5fbaba4 (このIDを非表示/違反報告)
syubyi - いい、、すごく良かったです、、、続きを、、後日談的な続きを、、 (2020年4月11日 14時) (レス) id: 4a176e1186 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:◎たなは◎ | 作成日時:2017年4月4日 23時

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