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黙秘し続けた男の前に現れたのは、真っ赤な靴を履いた女性の姿。
男の脳内で、懐かしい童謡が流れる。
赤い靴履いていた女の子
異人さんに連れられて、いっちゃった
そして、ぞっとする。
女の唇を見上げれば、形の良いそれは、脳内で流れていたはずの歌を、声に出さず口ずさんでいたのだ。
あかいくつ、はーいてた、おーんーなーのーこ。
いーじんさんに、つーれられーて、いーっちゃーった。
ヒュ、と男の喉が呼吸をしようと焦った。酸素が、酸素が欲しい。
どうしてか、空気が薄い気がしてならなかった。
それなのに、体を包む浮遊感が強くなる。
目は、女に釘付けになり、動かすことができない。
謎の浮遊感は、心臓の振動だとわかるために、随分の時間を要した。
は、は、と短く浅い呼吸を続けていた男は、茶色の瞳が自分の心臓を叩いているのを実感し、恐怖に見舞われた。
は、は、は。
ハ、ハ、ハ。
は。ハ。
呼吸さえも、苦しくなった。どうしてか、どうしてだ。両手はジーパンを握り締めているし、手汗は過去最多量なのに、体は冷たくて仕方ない。
女性はにっこりと、笑った。
小さな窓から入る薄い陽の光がやさしく、鋭く、彼女の笑顔を照らす。
男は知っていた。この感覚を、男は知っていた。
幼い頃、まだ男が真っ当な道で幼少時代を送っていた時、両親に連れて行ってもらった美術館の壁に展示されていた、巨大な絵画。
確かに、真ん中に微笑む女性がいた。
やさしく、緩やかで、艶やかに、微笑む女性がいた。
周りは少し薄暗く、絵画の女性は葦の中に埋まるような形で置かれたベンチへ腰掛けている。
男は幼少期、その絵を見上げて驚いたものだ。これが絵であろうか。中に人が閉じ込められてしまっているのではないか。
絵画の女性は明るいブラウンの瞳を優しげに解けさせながら、少年の後ろにある石像を見つめていた。
だから少年は、少し羨ましかったのだ。こんな綺麗な女性に見つめられる石像が。
きっと美術館が閉まったら、石像の男は動き出し、絵画の女性は絵から出てきて、二人でダンスをするんだ。この広い美術館なら、きっと楽しいことだろう。
男は思い出して、膝の上で握っていた手を震えさせながら、机に置いた。
最初は声を出そうとしても出ないまま、男はハクハクとそれでも口を動かして、やっと声がしゃがれていても出るようになると、全てを洗いざらい吐いた。
彼は、とある組織の末端の末端だった。
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ぱーぷる姫(プロフ) - すみません、下のコメントで気が付きました。気づくと鳥肌です！また1から読み直します！ (2022年8月25日 0時) (
レス) id: be661beda4 (このIDを非表示/違反報告)
もちもち - 最高でした。言葉選びとかセンスがツボに刺さりまくりました。赤井と糸川で「赤い糸」になるのも気づいた時に鳥肌止まりませんでした。とにかく最高でした。 (2021年5月5日 1時) (レス) id: b3862cde2f (このIDを非表示/違反報告)
舞(プロフ) - 続編お願いします(T_T) (2020年8月8日 13時) (レス) id: e826140184 (このIDを非表示/違反報告)
vm - とても、すてきな言葉のセンスから見える世界観がとっても、大好きです！なかなか赤井落ちはないので、ありがとうございました！ (2020年5月1日 0時) (レス) id: d0a5fbaba4 (このIDを非表示/違反報告)
syubyi - いい、、すごく良かったです、、、続きを、、後日談的な続きを、、 (2020年4月11日 14時) (レス) id: 4a176e1186 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：◎たなは◎
| 作成日時：2017年4月4日 23時
