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工藤が事情聴取を受けている間、糸川の姿は見受けられなかったが、事を終え、聴取に使用していた会議室を出て廊下を歩いていると、コツコツと小気味好いヒールの音が後方から聞こえた。
思わず振り返ると、やはり聞き覚えのある足音は主にくっついていた。
「糸川さん」
「あれ、工藤くん。聴取は終わった？ お疲れ様」
「はい、お疲れ様です。糸川さんは警察庁に行くはずだったのでは？」
糸川は工藤の横まで来ると、玄関口まで送るよと言わんばかりの笑顔で工藤の背中を叩く。
小さく止まった糸川が歩き出すのに導かれるように工藤も歩みを続ける。
「うん、ひと仕事ここにあったから。今片付けてきたところ」
「そうだったんですか。お忙しいんですね、やっぱり」
「いや？ 探偵殿よりは暇よ」
「嫌味ですか」
はっはっは、と軽快に笑う糸川。靴音さえも軽やかだ。
対して、隣にいる風見の表情はあまり冴えない。げんなり、というよりはげっそり。顔色も先程より数段青白い印象を持たせる。少し下がり気味の眼鏡を直さないくらいに。
「風見さん、どうかされたんですか」
「え？ あぁ、いや」
「風見はお疲れモードなんだよ」
風見の代わりに答えた糸川の声が笑っている。
「糸川さんは元気そうですがどういうご心境ですか」
「ん、聞きたい？」
「遠慮しておきます」
「聞いてきたのは君でしょう」
風見が糸川を軽く睨むが、彼女はさして気にしていない様子のまま廊下の角を曲がった。警視庁のエントランスホールが大きく開け、人の往来が増える。
二重の自動ドアの一枚目をくぐり、糸川は工藤を見て囁くほどの声で目を細めた。
「探偵君、推理してごらん。私が今まで、何をしていたか」
重い自動ドアが、左右に手を広げて道を開ける。工藤は腕の下をくぐり、駐車場に出ると糸川を振り返った。
「……事情聴取でしょう」
「優秀。素晴らしい洞察力」
クッ、と糸川の綺麗な薄い唇が弧を描く。
工藤はその薄い笑顔に背中に冷水をぶっかけられたような気持ちになった。
吸った空気が喉に詰まって声が出ないまま、口を閉じられずに酸素を探す。
全て、すべて見透かされているような目線。あなたのことは全部知っているのよと、赤銅色の瞳が工藤の目を追いかける。
工藤の体は錆び付いたようにその場に直立した。動けば骨がギシギシ音をたてるのではと思うほど。
「気をつけて」
それは、帰路につく工藤に向けられた言葉か、それとも違うのか、わからなかった。
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ぱーぷる姫(プロフ) - すみません、下のコメントで気が付きました。気づくと鳥肌です！また1から読み直します！ (2022年8月25日 0時) (
レス) id: be661beda4 (このIDを非表示/違反報告)
もちもち - 最高でした。言葉選びとかセンスがツボに刺さりまくりました。赤井と糸川で「赤い糸」になるのも気づいた時に鳥肌止まりませんでした。とにかく最高でした。 (2021年5月5日 1時) (レス) id: b3862cde2f (このIDを非表示/違反報告)
舞(プロフ) - 続編お願いします(T_T) (2020年8月8日 13時) (レス) id: e826140184 (このIDを非表示/違反報告)
vm - とても、すてきな言葉のセンスから見える世界観がとっても、大好きです！なかなか赤井落ちはないので、ありがとうございました！ (2020年5月1日 0時) (レス) id: d0a5fbaba4 (このIDを非表示/違反報告)
syubyi - いい、、すごく良かったです、、、続きを、、後日談的な続きを、、 (2020年4月11日 14時) (レス) id: 4a176e1186 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：◎たなは◎
| 作成日時：2017年4月4日 23時
