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大きな机に、黒いプレートがつぅ、と動いた。そいつには金の字で名前が彫り込まれているが、Aの指先がそれを机の奥に追いやった。


机に腰掛け―――普通、そこに座ったら首が飛ぶような机に―――華奢で余分な肉のない綺麗な足をゆっくりあげてみせれば、金の字で彫り込まれた名前を持つ男が床に跪き、艶やかなベージュのパンプスをその足にそっとはめ込んだ。

パズルのピースがぴったりはまるように、靴はAの足にきちんとその身を収めると、照明に反射してアーモンドトゥが身を翻すように光る。

男はそのつま先にキスを落として、手を華奢な足に伸ばし、溶けるような手つきで撫でた。
組んでいた足を解き、つま先で男の顎を猫を撫でるように触ってやれば、男はその汚いどろりとした目でAを見上げた。


Aも同じ目で、薄い唇を弧に描く。きゅぅ、と上がる口角に男の右手が足首、脹脛、太ももをなで上げ、左手がAの頬に触れる。


「オイタはやめてくださいね」
「連れないな。でも、綺麗だよ」


左手が掬った黒髪に、男が口付ける。
ちらりと男が目線を投げるので、Aはその手をそっと撫でながら、同じ場所にキスをした。


「悪い子だ」
「イイコが好きですか?」
「いいや……野郎からもらった靴で走り回るくらいのお転婆娘がいい」
「ん、やーね」


くすくすと笑ったAは黒髪を耳にかけ、せり上がってきた男の右手を手で叩いた。それ以上は割に合わないわよ、という合図である。


靴はトラッゼ=ラ=ブールの最新作ものだ。
ヌーディなベージュカラーはストラップ付きで、これなら走りやすそうだと、仕事のことしか考えていなかったAは、はやり高級ブランドだけある履き心地に感嘆した。

アーモンドトゥだから躓く心配もそうない。
ポインテッドトゥは走りにくいのだ。先端の鋭さでよくコケる。その分アーモンドトゥは良い。

そもそもヒールのある靴で走るのはいかがなものかと思うが、走らざるを得ない状況というのがAにいつも付きまとうのだから、しょうがない。


そして目の前の男、上層部の一員である初老の金持ちはこうしてAに靴を送っては、それを履いているAを目にしてにんまりするのが趣味なのだ。

世の中には一癖も二癖もある趣味……性癖を持つ人間など、五万といる。
自分の上に立つ人間がそういったものを持っていても、Aは驚かなかったし、挙句取引として使ったのだ。

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ぱーぷる姫(プロフ) - すみません、下のコメントで気が付きました。気づくと鳥肌です!また1から読み直します! (2022年8月25日 0時) (レス) id: be661beda4 (このIDを非表示/違反報告)
もちもち - 最高でした。言葉選びとかセンスがツボに刺さりまくりました。赤井と糸川で「赤い糸」になるのも気づいた時に鳥肌止まりませんでした。とにかく最高でした。 (2021年5月5日 1時) (レス) id: b3862cde2f (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 続編お願いします(T_T) (2020年8月8日 13時) (レス) id: e826140184 (このIDを非表示/違反報告)
vm - とても、すてきな言葉のセンスから見える世界観がとっても、大好きです!なかなか赤井落ちはないので、ありがとうございました! (2020年5月1日 0時) (レス) id: d0a5fbaba4 (このIDを非表示/違反報告)
syubyi - いい、、すごく良かったです、、、続きを、、後日談的な続きを、、 (2020年4月11日 14時) (レス) id: 4a176e1186 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:◎たなは◎ | 作成日時:2017年4月4日 23時

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