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微睡みから、水面に顔を出すように浮上すると、瞼の向こうは既に薄明るくなっていた。

眩しさに何度か目を瞬かせ、明るさに慣れたところで現実を見た。


淡い朝日に照らされている、床へ散乱した服、服、服。たまにゴム。

朝一番で見る景色ではない。確実にAは目を背けたくなった。勢いって怖い。

隣に眠る赤井に背を向けて、呆然とその悲惨なカーペットを眺めていると、後ろから腰を抱かれた。

シーツの布擦れする音と一緒に、肩口に癖毛の頭がやってくる。擦り寄るごとに頬を掠める髪が擽ったい。


「おはようございます」
「あぁ、おはよう」


最高な朝だ。そう言った男は腰を離す気は毛頭無いらしい。引き寄せられ、背中に温度を感じた。

ベッドサイドテーブルにあるデジタル時計に目を向けると、午前五時二十五分。随分早い起床。

だが、今日はAも非番。シフト上そうなっているのだから、誰からも文句は言われない。言われないが、まぁ、机上の書類がどうなるかは目に見えている。

目に見えていることから逃げるように、Aは仕事のことを考えるのをやめた。


「まだ早いですから、寝たらどうです」
「起きるまで居てくれるだろう?」
「居ますよ、大丈夫。さぁ、おやすみなさい。わたしも、ねむい」


寝返りを打って、向かい合う。シーツを手繰り寄せて、肩まで引き上げた。

目を閉じた男の、目の下を指で擦る。変わらぬ隈も、今日はそれなりに軽く見えた。

Aの腰に回っていた手にぐっと力が入る。

目を閉じる。窓の外は車の音が静かに、しかし徐々に増えつつありながら、朝の風を生み出しているようだ。

前髪がふわふわと揺れる。男の寝息に耳を傾ければ、彼の心臓の音も聞こえた。

一定のリズムを保つ、神秘な音。あぁ、この人、生きてる。Aは何故か酷くほっとした。

よかった。ちゃんと、血の通う人間だ。


Aは心臓に擦り寄った。耳をあてて、そのまま襲い来る微睡みに身を任せる。

ゆっくりゆっくり、体の力が抜けていく感覚。眠りに一歩一歩、近づく感覚。

どく、どく、どく。

よかった。ちゃんと、血の通う人間だ。


 

そういえば、自分の心臓の音を聞いたことがあっただろうか。

Aは夢と現の境界で、ふとそんなことを思ったが、答えが出るまもなく再度眠りについた。

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ぱーぷる姫(プロフ) - すみません、下のコメントで気が付きました。気づくと鳥肌です!また1から読み直します! (2022年8月25日 0時) (レス) id: be661beda4 (このIDを非表示/違反報告)
もちもち - 最高でした。言葉選びとかセンスがツボに刺さりまくりました。赤井と糸川で「赤い糸」になるのも気づいた時に鳥肌止まりませんでした。とにかく最高でした。 (2021年5月5日 1時) (レス) id: b3862cde2f (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 続編お願いします(T_T) (2020年8月8日 13時) (レス) id: e826140184 (このIDを非表示/違反報告)
vm - とても、すてきな言葉のセンスから見える世界観がとっても、大好きです!なかなか赤井落ちはないので、ありがとうございました! (2020年5月1日 0時) (レス) id: d0a5fbaba4 (このIDを非表示/違反報告)
syubyi - いい、、すごく良かったです、、、続きを、、後日談的な続きを、、 (2020年4月11日 14時) (レス) id: 4a176e1186 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:◎たなは◎ | 作成日時:2017年4月4日 23時

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