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小さな高台の細道はステンレスの手すりがついているだけの、散歩道と言えるかどうかさえ怪しい道で、それでもAはさくさくと細道を進んでいった。

小学生が地元の裏山を探検するような足取り。華奢な指先が手すりを撫でる。


赤井は階段の途中で後ろを振り返った。

地上は微風なのに、空の風はよく走っているらしい。雲の流れる早さが駆け足だ。


「いい景色だ」


ほんの小さな高台なのに、きちんと周りが見渡せる。

段数も然程登ってきてはいないが、空が近くに感じられる。

赤井が視線を前に戻すと、そこにAの姿が忽然と消えていた。


咄嗟に周りを見渡す。街灯が多いわけではないこの地で、彼女を持って行かれでもしたら。

残り数段の石段を長いコンパスで駆け上がると、頭上から小さな笑い声が降ってきた。


振り仰ぐ先には、Aの姿があった。


「いつの間にそんなところへ逃げたんだ」
「逃げてなんていませんよ。靴が連れてってくれたんです」
「今度、靴に鎖をつけておこう」
「その先は貴方が?」
「責任を持って」
「考えておきます」


柵から乗り出していたAの顔が、ぱっと消える。赤井はAのいる頂上までの階段を登った。

はやくはやく。赤井を急かすように背中を風が押し上げる。赤井もされるがまま、軽やかに足を踏み出した。



頂上は広場になっていた。広場と言っても、円形の石畳でできている、直径二十メートルあるかないかの、小さな広場だ。

12時、3時、6時、9時の四方向にベンチがあるだけの広場を、腰骨の高さでこれもステンレスの柵がぐるっと広場を囲んでいる。


Aは、そのステンレスの柵に、こちら側へ背を向ける形で座っていた。


「危ないぞ」


赤井が声をかけても、女は振り返らない。彼女の視線は、雲に隠れた月に注がれている。

赤井は靴音高らかに背中を迎えに出た。こつこつこつ。

あと五歩。あと五歩というところで、Aはやっと口を開く。


「ねえ赤井さん」
「ん?」
「私、驚く程不器用になっていました」


Aの指が輪をつくる。走る雲に閉ざされた月を、その輪から覗き込んだ。


「君はなんでも手早くできる。指揮を執るのもうまい。器用なものさ」
「はは、恋愛に関してですよ」
「……ホー」


走る雲。あと少しで雲から出られるのに、あと少しのところで他の雲が重なって、その神秘な光を向けてはくれない。

指先望遠鏡から見える月は、綺麗だろうか。赤井は気になった。

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ぱーぷる姫(プロフ) - すみません、下のコメントで気が付きました。気づくと鳥肌です!また1から読み直します! (2022年8月25日 0時) (レス) id: be661beda4 (このIDを非表示/違反報告)
もちもち - 最高でした。言葉選びとかセンスがツボに刺さりまくりました。赤井と糸川で「赤い糸」になるのも気づいた時に鳥肌止まりませんでした。とにかく最高でした。 (2021年5月5日 1時) (レス) id: b3862cde2f (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 続編お願いします(T_T) (2020年8月8日 13時) (レス) id: e826140184 (このIDを非表示/違反報告)
vm - とても、すてきな言葉のセンスから見える世界観がとっても、大好きです!なかなか赤井落ちはないので、ありがとうございました! (2020年5月1日 0時) (レス) id: d0a5fbaba4 (このIDを非表示/違反報告)
syubyi - いい、、すごく良かったです、、、続きを、、後日談的な続きを、、 (2020年4月11日 14時) (レス) id: 4a176e1186 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:◎たなは◎ | 作成日時:2017年4月4日 23時

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