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フロアに入る光は、月と、開きっぱなしのパソコンのみ。

薄暗い部屋で、Aの指先を、赤井の指先がそっと撫でる。

Aは俯いて、されるがままになっていた。


「降谷君が言っていたよ。縋ってしまった自分が言えることではないとね。彼も自負しているようだ。俺が聞いてしまったことには、目を瞑ってくれ」
「仕事を、増やしてしまいました」
「これが仕事なら、とっくにやめてるさ」
「善意ですか」
「さぁな。だが、どうにもほっとけないんだ」
「やさしいんですね」
「俺ほどやさしくない人間はいない」


じゃあ、やさしすぎて残酷なんだ。
指先を伝うぬくもりが、どうにもやさしすぎる。この温かさが消えてしまうことがわかっているから、残酷なんだ。


「ひどいひと」
「そうだな。俺はひどい奴だ」


白い手は冷たいと思いきや、大きな温かさを持っている。
指先を撫でていた手は、そっとAの手を包み込む。

与えられるだけの、暴力的なやさしさに、Aは縋った。
指を絡め、握り締めた。


「俺はひどい奴だから、君が泣いてしまうのも、当然だろう」


やさしい、やさしい男。暴力とも言えるそのやさしさと温もりは、冷たすぎる心に熱湯をかけたように、じんじんと熱を伝える。

暗い視界が、滲んで歪んで、瞬きをすると、一瞬クリアになって、また滲んで。


「ごめ、なさい」


嗚咽と一緒に漏れた言葉に応えるように、男はその大きな両手で、Aの手を包み込んだ。





 
■□■□■□■□■





 
どれくらい時間が経っただろうか。

肩の震えもおちつき、心もおちついた。


あぁ、面倒な女だと思われた。嫌な女だ。自己嫌悪に浸りながら、顔を上げられずにいるAに、赤井は椅子から立ち上がると、Aの足元に片膝を付いてそっと顔を覗き込む。


「すみません……こんなに、遅くまで。足止めしてしまって」
「構わない。むしろ、君が心を許してくれたと受け取ってもいい状況に、歓喜しているところだ」
「ひどいひと」
「だから言っただろう。俺はひどい奴だと」


俯いていた顔を上げると、翡翠が月光に照らされて、見惚れた。
だが、視界に蓋をするように、男の親指がやさしくAの濡れた目を拭う。


「ゆるしてくれたと、受け取っても?」


バリトンが心地よい。大きな手のひらに擦り寄るように、Aは頷いた。


「女の涙は、高いんですよ」
「涙と一緒に心まで盗めるよう努力しよう」

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ぱーぷる姫(プロフ) - すみません、下のコメントで気が付きました。気づくと鳥肌です!また1から読み直します! (2022年8月25日 0時) (レス) id: be661beda4 (このIDを非表示/違反報告)
もちもち - 最高でした。言葉選びとかセンスがツボに刺さりまくりました。赤井と糸川で「赤い糸」になるのも気づいた時に鳥肌止まりませんでした。とにかく最高でした。 (2021年5月5日 1時) (レス) id: b3862cde2f (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 続編お願いします(T_T) (2020年8月8日 13時) (レス) id: e826140184 (このIDを非表示/違反報告)
vm - とても、すてきな言葉のセンスから見える世界観がとっても、大好きです!なかなか赤井落ちはないので、ありがとうございました! (2020年5月1日 0時) (レス) id: d0a5fbaba4 (このIDを非表示/違反報告)
syubyi - いい、、すごく良かったです、、、続きを、、後日談的な続きを、、 (2020年4月11日 14時) (レス) id: 4a176e1186 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:◎たなは◎ | 作成日時:2017年4月4日 23時

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