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薄い煙の中、瞬きの回数が自ずと増えるその空間に、煙草がひとつ、ぽとりと息を引き取った。

冷たい床に放り出されたそれは、静かに静かに、細い紫煙をあげて、最後、ふつりと灯火を消す。


静かに静かに、男は言葉を紡いた。



一度、殴り合ったことがあるんです。

夜中に差し掛かる午後十時半を過ぎて、もう少しで十一時にもなろうかという時間でした。

最初に手を出したのは僕です。彼女の頬を平手で打ちました。

よろめいたあいつは、一歩、二歩。後ろに下がって、打たれた横顔のまま、一秒、二秒。

何か反論してくると思った。
叩いてしまったことへの罪悪感と、焦燥。部下に肩を掴まれたまま、僕は反論や暴言に対抗する言葉の羅列を一生懸命考えていました。

でも、あいつから言葉なんて出てこなかった。

なにが出てきたと思います? もう五年以上前の話ですけど。

右ストレート。もちろんあいつ、右利きです。


容赦ない。

一発目は股間に蹴り。上体が傾いた良いタイミングでネクタイ掴まれたと思ったら、まさかの拳が左から吹っ飛んできた時には、これは入院かなと思いました。


あぁ、糸川の悪口をあなたに聞かせにきたわけじゃない。

聞いて欲しいのは、この喧嘩の発端ですから。そんなに怖い顔するな。ははっ、人ひとり殺れそうですけどね。


ほら、僕の髪色はこんな色でしょう。上の人間は嫌がる。日本国籍を持っていても、髪色も肌色も、瞳の色さえも違う僕は異端者として見られていた。

まあ、この容姿のおかげで潜入捜査に乗っかることができたっていうのも、あるんですけど。

それはさて置き、日々上層部から文句を言われ続けていました。ときには仕事に来るなと言われたこともありました。いつまでもチャラチャラしているな、とね。自毛なのに。

海外では恐ろしい考えでしょう。でも、日本のお堅い頭じゃこんなもんです。

でもある日を境に、その文句がぷつりと止んだ。ほんとうに、ぴたりと。隣を通っても、何一つ言われないようになり、挙げ句の果てに肩を叩かれるまでになった。


貴方にしかできないんですよ。俺が叩いても殴っても、どんな言葉を浴びせてもやめない。

あいつは自己犠牲が過ぎている! まるで何事もないように自分を砕いてしまう。


…………上層部にね、取り入ってたんですよ。僕の髪色なんてどうでもいいだろうって。

対価として、あいつは上の人間の好きなことをさせられている。

あの靴だってそうだ。履かされているんだ!

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ぱーぷる姫(プロフ) - すみません、下のコメントで気が付きました。気づくと鳥肌です!また1から読み直します! (2022年8月25日 0時) (レス) id: be661beda4 (このIDを非表示/違反報告)
もちもち - 最高でした。言葉選びとかセンスがツボに刺さりまくりました。赤井と糸川で「赤い糸」になるのも気づいた時に鳥肌止まりませんでした。とにかく最高でした。 (2021年5月5日 1時) (レス) id: b3862cde2f (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 続編お願いします(T_T) (2020年8月8日 13時) (レス) id: e826140184 (このIDを非表示/違反報告)
vm - とても、すてきな言葉のセンスから見える世界観がとっても、大好きです!なかなか赤井落ちはないので、ありがとうございました! (2020年5月1日 0時) (レス) id: d0a5fbaba4 (このIDを非表示/違反報告)
syubyi - いい、、すごく良かったです、、、続きを、、後日談的な続きを、、 (2020年4月11日 14時) (レス) id: 4a176e1186 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:◎たなは◎ | 作成日時:2017年4月4日 23時

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