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ガラス製のローテーブルに置いた袋から、箱を取り出す。

間接照明だけをつけた室内は薄暗い。

取り出された箱を、まるでパンドラの箱でも開けるかのように、慎重に、ゆっくり、静かに、そぅっと、あけた。


「わ」


熟成されたワインレッド。アンクルストラップのついたそれは、ラウンドトゥ。8.5センチヒールが上品さと気高さを醸し出す。


「きれい」


吐息と一緒に出てきた言葉に、Aはやっと自分が自宅に存在していることを思い出した。ここまでの道のりが無心だった。

じんじんと脳中を流れ続ける曲が、一度遠くなると同時に、今度は静かな過去がやってくる。



おつかれ、と言われた。

靴をもらった。

おやすみ、と言われた。

いい夢を、と囁かれた。


愛は川だという。穏やかな葦を飲み込んでしまう。
愛は刃だという。あなたの心から血を流させる。
愛は飢えだという。終わりのない痛みが必要だ。
愛は花だという。あなたはその種である。


夏に聞くセミの鳴き声がふと耳元へ蘇るように、歌が耳の奥に戻り歌を紡いだ。


あの瞳に飲み込まれた。
あの扉に心は血を流した。
あの声に終わりのない痛みを感じ、
あの微笑みに温度をもらった。


絶望よりも、もっとむこう。そのもっと向こう側。

背中を駆け抜けた寒さと、頭だけを溶かす熱。

だめだと脳のどこかで警報が鳴り響いているのにも関わらず、私という人間は足を踏み入れてはいけない場所のドアを、開いてしまったらしい。


Aをせせら笑うように、間接照明に照らされた目の前のワインレッドな貴婦人は、その美しい体を艶やかに光らせた。




あぁ、スカーレットよ。恋という海に私を投げ入れた貴方は、どうしてそうも笑っていられるの。

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ぱーぷる姫(プロフ) - すみません、下のコメントで気が付きました。気づくと鳥肌です!また1から読み直します! (2022年8月25日 0時) (レス) id: be661beda4 (このIDを非表示/違反報告)
もちもち - 最高でした。言葉選びとかセンスがツボに刺さりまくりました。赤井と糸川で「赤い糸」になるのも気づいた時に鳥肌止まりませんでした。とにかく最高でした。 (2021年5月5日 1時) (レス) id: b3862cde2f (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 続編お願いします(T_T) (2020年8月8日 13時) (レス) id: e826140184 (このIDを非表示/違反報告)
vm - とても、すてきな言葉のセンスから見える世界観がとっても、大好きです!なかなか赤井落ちはないので、ありがとうございました! (2020年5月1日 0時) (レス) id: d0a5fbaba4 (このIDを非表示/違反報告)
syubyi - いい、、すごく良かったです、、、続きを、、後日談的な続きを、、 (2020年4月11日 14時) (レス) id: 4a176e1186 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:◎たなは◎ | 作成日時:2017年4月4日 23時

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