パンとごはん ページ1
とととと、とととと。包丁の音と、鍋がふつふつ動く音。美味しそうなスープの香り。
じゅっ、と油がはねる音。続いて鼻に届く卵の甘い匂いと油の匂い。菜箸がフライパンを撫でる。
世良真純はぱちりとその大きな緑色の瞳を朝日に晒したかと思うと、ベッドから飛び起きて部屋を飛び出した。
「卵焼き甘いのがいい!」
キッチンのある部屋に転がり込むと、寝起き一番、そう叫ぶ。
黒いエプロンをした後ろ姿が、呆れた顔で振り返った。
「まずおはようでしょ。それから、もっと静かに起きてくること」
「甘い?」
「…………」
「おはよう!」
「はい、おはよう。言われなくても甘くしてる」
やった!と嬉しそうに真純がはねる。Aは呆れ笑うと、真純に洗濯物とテーブルセットを頼んだ。
「いただきまーす!」
「めしあがれ」
二人がけのテーブルに並んだ朝食。
四枚切りを半分にカットしてトースターでこんがり焼いた食パンに、甘い卵焼き。
野菜たっぷりのミネストローネに、カリカリベーコンとバジルドレッシングで和えたサラダ。
全て、春日Aの手作りである。
彼女の前で、それを美味しそうに頬張るのが、シェアハウスで同居人、世良真純。
学部は違うものの、同じ東都大に通う一年生だ。
食事はAが、洗濯は真純が主に担当し、掃除は自室は各自。共有スペースは場所別での分担。
買い物は各自。食材や生活用品など共有のものは「フリーマネー」と名づけたお金でまかなっている。
シャアハウスを始めるきっかけになったのは、真純のホテル暮らしとAの一人暮らしをしたいという意見であった。
Aの家族は心配ながらも一人暮らしを許可したものの、東都大近くでなかなか良い物件が見つからない。
女性の一人暮らしとなると、防犯面の問題から選択範囲が狭まってしまう。
で、それを真純に相談したところ、彼女もホテル暮らしもそろそろ区切りをつけたいと話が出た。
なら一緒に暮らせばいいじゃない!
という意見は早々に一致し、そこからはスピード解決。部屋もさくっと決まると、双方荷物の少ない生活をしていたため、引越しに時間は必要無かった。
「今日一限目からあるんでしょ」
「んっ、そうだった」
口の中を食べ物で一杯にしながら慌てる真純に、Aがお弁当と小さなタッパーを渡す。
「小腹がすいたら食べるといいよ」
いってらっしゃい。見送るAに真純は手を振って部屋を後にした。
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◎たなは◎(プロフ) - 仕立て屋さん» コメントありがとうございます! 返信が遅くなりすみません。大変嬉しいお言葉です! 美味しく楽しく元気よく、これからも仕立て屋さんがもぐもぐされますよう心からお祈りしております。 (2017年6月17日 18時) (レス) id: 8b768110c2 (このIDを非表示/違反報告)
仕立て屋(プロフ) - 最後の最後で泣かせやがってちくしょうが!(誉め言葉) ついついほろりと来てしまいました。ご飯は感謝して、美味しく食べるのが一番だと改めて思いました。 遅くなりましたが、完結おめでとうございます。またどこかで、伏線等々は供養してあげてくださいませ。 (2017年3月26日 22時) (レス) id: 12a3217b1f (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - Razu.さん» はじめまして。コメントありがとうございます! とても嬉しいです……! お腹も心も満たせる、そんなきもちをお届けできていたら幸いです。 (2017年3月25日 15時) (レス) id: 8b768110c2 (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - 莉子さん» いえいえ、上手とはいえません……! どちらかというと食べる方が好きです。 (2017年3月25日 15時) (レス) id: 8b768110c2 (このIDを非表示/違反報告)
Razu.(プロフ) - 食事というテーマから、ここまで物語を造り上げられることに、本当に本当に憧れます。これからも応援してます!>< (2017年3月24日 16時) (レス) id: f9eec0b2ee (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:◎たなは◎ | 作成日時:2017年3月15日 22時