【名探偵コナン】女の遠慮、男の配慮【風見裕也】 (ページ8)

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どれだけ時間が経っただろうか。あれから三十分は経っただろう。Aの足が徐々に痺れてきたのだから、もう少し経っているかもしれない。

　Aは、気づいたことがあった。音だ。外が少しだけ、騒がしかった。
銀行の外である。Aの首に腕を回して引き寄せているこの男は、多分Aを思いっきり右手に持っている拳銃で殴ってから、Aが気絶すると、銀行にいた人々を拘束。部屋の奥にあるであろうバッテリーロッカーを開けて自動ドアの電源を切ると、外界から侵入できないようにしたのだろう。いわば、密室である。

　外は音からして警察の手によってバリケードが張られ、人払いがされているらしいが、それでも警察関係者の声が遠くに聞こえていた。

　耳をすませば少しだけ、人が喋っている声だけが聞こえる。内容までは聞き取れないものの、この張り詰めた雰囲気の中で人の声がすること自体がとても安心感のあることだと、Aは少しばかりホッとした。多分、顔の見えない壁を見つめる人々も同じことを思っているだろう。

　三十分あれば、AもA以外の人質も、自分のおかれた状況がどんなものかわかるはずだ。そもそも壁側の人たちはAが気絶している間にも時間があったのだろうから、相当冷静になれるのでは、と思っていたが、背中を見ているとそうでもなかったらしい。
　隅では失禁してしまっている老人もいるし、身動きができない中で足が痺れたのだろう、ゆっくりと足を崩そうとしている制服姿の女子高生もいる。

　人間性が出るなあ、と一番危険な状況であろうAは静かに思った。右側のこめかみに銃口を向けられている最中の人間が言えることではないだろうが、しかし身動きが取れない中、動かせるのは心臓と口と目くらい。口は喋るなよ、という威圧感で下手に喋られないので却下だが、その分目が動くし耳もよく働く。

　天井には二つほど、ヒビが入っていた。銃痕である。へぇ、あんな感じになるんだあ、とAは思う。生きて出られるかは、立てこもり犯のご意向に沿う方向性になってるが、もし外の警察官がうまくことを運んでくれれば仕事に戻れる未来も待っているかもしれない。

　もし仕事に戻れたら、この経験を大いに生かしてやろうとAは心の中で拳を握りしめ決意した。

　その時。

　耳を貫くハウリングが聞こえたのだった。