9 ページ9
ハンドマイクに絡まるハウリングが、耳を貫く。
耳障りな高音に、Aの首に腕を回している男はハッとして身構える。腕に力が入り、Aは男にもっと引き寄せられる体勢で眉間に皺を寄せた。もう嗅覚も麻痺してきたのか、悪臭に慣れてしまった鼻は呼吸だけを繰り返している。
男は右手に持った拳銃を、Aのこめかみにぐっと押し当てた。途端、忘れていた疼痛がぶり返す。頭を打ったときのような、ガンガンとした最初の痛みと違って、妙にジクジクと痛んでいる。
Aはその痛みの理由を後になって知るのだが、この時はまだ「強く押し当てすぎじゃない?」くらいにしか思っていなかった。
『あー、聞こえるだろうかー』
声が聞こえる。ハンドマイクを通した、少しざらついては高く聞こえる声は知らない男声。若くない声にベテランだろうかとAは少しばかりホッとした。目の前の老若男女はもっと安心したのだろう、すすり泣く声が出始めている。
『君が何を望んでいるかは知らないが、少し話がしたい』
ギシギシとAの柔い首を締め付ける、でっぷりと贅肉が乗った腕。緊張しているようだった。
『一人だけ、相談員をそちらに送りたい。君にも君の捕らえた人々にも、危害を加えるようなことは一切しないと約束する』
『十分間で十分だ。相談員は君にも人質にも触れることはしない。約束しよう』
『納得してくれるのであれば、どこでもいい。一箇所、ドアを開けてくれ』
Aは緊張する男を見上げた。
「動くなっ」
銃口を深く押し付けられ、Aは痛みに顔を歪める。気絶させられたときの痛みが残っているのだろう。頭蓋骨にヒビが入るとか、そのくらいの話だろうかとAは呑気に考えながら、しかし男を見上げるのをやめなかった。男もいまの状況でそこまで気が回らないのだろう。テンポの速い呼吸を繰り返してはソワソワと周りを見ている。
「お、お、お前。お前どう思う」
男は、あろうことかAに尋ねた。人質に質問する立てこもり犯がいるか? と思ったが、間違いなくAの目の前にいる。この男、何がしたくてこんな大掛かりなことを、とAは思いながら、妙に冷静で、妙に落ち着いた己が本当に落ち着いているのか、確認するように一度大きく深呼吸してから口を開いた。
「好きにしてくださいよ」
「なんで」
「なんでって………立てこもりたくて立てこもりに来たんでしょう」
158人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「名探偵コナン」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
な(プロフ) - えっ……天才。 (2018年10月21日 21時) (レス) id: 057c14ed72 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:◎たなは◎ | 作成日時:2018年10月15日 21時