子供 ページ10
「電話をくれた岡本ご夫妻から、鷹守さんが行方不明になって知り合いが探しているからわかることがあったら教えてあげて欲しい、そちらに向かわせるからって聞いてたんだけど。あの子、本当に何も言わずにどこか行っちゃったのね? 危ないわ、ちゃんと他の医師に診察してもらってるのかしら」
貴方名前は、と聞かれて赤井は名を名乗った。目の前でその名前を聞きながら、女医はカルテだろう書類に目を落としながら頷いている。
「はい、大体のことは理解できました」
「俺はできていないのですが」
「説明するわ。秘密事項ではあるけれど、説明した方があの子と子供のためだわ」
富畑女医は、カルテの一部と妊娠診断書を開示してくれた。黙っていてね、と釘を刺されたが、赤井からしてみれば彼女もまた、警察関係の人間であることがわかる。ここは“そういう”産婦人科なのだろう。
カルテには、見た事のある愛おしい字が羅列されていた。名前、年齢、血液型。最後の月経が開始された日と、出産予定日。そして、パートナーの欄には。
「赤井秀一」
自分の文字が、彼女の手で記されている。
「どういう事だ」
「あの子、妊娠していたの。でも妊娠発覚してから来てないわ。連絡しても、繋がらないし。仕事は辞めたみたいだけど、辞めてどこに行ったのかまでは私も知らないの。だから貴方が探しているって聞いて力になれればと思ったんだけど」
「実家があった場所まで行きましたが」
「無かったでしょう、家。もう今頃は新しい家でも建ってるんじゃない?」
「えぇ」
富畑は、ため息をついて椅子にもたれた。困ったわね、と呟く。
「貴方、確か警察関係のお仕事よね」
赤井は持っていた身分証を提示する。FBIのバッジをみて、富畑は頭を抱えた。
「FBI…………あの子も逃げるわけだわ。あのね、あの子に妊娠確定よって言ったら、すっごく困った顔してたの。で、パートナーがわからないのかしらと思ったんだけど、聞いてみれば付き合ってもいない男だって言うじゃない。最初無理矢理されたかと思ったのよ。
でも、相手の名前も顔もわかっていて、それで言いたくないって言うの。その時ね、強いあの子が何を怖がってるか、わかったわ」
赤井は車を走らせながら滞在しているホテルに戻った。ジャケットを脱ぎ、帽子を取ってソファに腰掛ける。静かな室内に、女医の言葉が頭にこだまする。
『あの子、貴方に堕ろせって言われるのが怖かったのよ』
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◎たなは◎(プロフ) - キスマイさん» 初めましてこんばんは。最後まで読んでいただいて本当にありがとうございます。感想をいただけて嬉しく思います。この嬉しさは今後の糧になります。本作は終わってしまいましたが、よろしければ他作でもお会いできることを楽しみにしております。 (2018年6月23日 22時) (レス) id: b9c1cce9d4 (このIDを非表示/違反報告)
キスマイ(プロフ) - はじめまして。最後までとても楽しませて頂きました。素敵な小説ありがとうございました。 (2018年6月7日 0時) (レス) id: 64045badf0 (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - はなさん» お褒めのお言葉ありがとうございます。楽しんで頂けたようで何よりです。これからも精進して行きますので、お時間許す限りお付き合いくだされば嬉しいです。 (2018年4月4日 17時) (レス) id: b9c1cce9d4 (このIDを非表示/違反報告)
はな(プロフ) - しっかりとした文章に作者さんは頭のいい方だなと思いながら読んでいました。表現や比喩の仕方もなかなかでとても楽しかったです。ありがとうございました! (2018年4月1日 2時) (レス) id: 0b253d056d (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - アカさん» 楽しんで頂けてとても嬉しいです。ありがとうございます。続編とまではいきませんが、番外編を後日、他作のSS缶詰の方へ掲載できればと考えておりますので今しばらくお待ちください。これからもどうぞよろしくお願いします。 (2018年3月31日 20時) (レス) id: b9c1cce9d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:◎たなは◎ | 作成日時:2018年3月22日 1時