過去 ページ9
「鷹守さん? あら懐かしわ。ほら、ここは辺鄙な場所にあるでしょう。患者さんも少なくって、顔は覚えられるのよ。鷹守さんのところは旦那さんも奥さんも若くして亡くなられてるでしょ。Aちゃんは苦労してたのよ。でも、気立てが良くってねえ。お母さんが入院してもできるだけお見舞いに行ってたみたいだし」
「鷹守さんとこのAちゃんか。久しぶりに名前を聞いたが元気にしてるのか? なに、行方不明? そりゃ大変な事だわ。この老体だから協力できることは少ないが、なんでも言ってくれや。
Aのこと良く知ってんのは、そうだなあ。なあフミエ、ほら、独立して東京に産婦人科開いたって言う、なんて言ったっけ。あの小太りの」
「あぁ、富畑さん! あの人なら知ってるでしょうねえ。聞いてみるといいわ、トミバタ産婦人科。東京にあるから、訪ねてみてちょうだい。連絡はして話は通しておいてみるから」
個人情報も調べてみれば出てくるものである。赤井は情報漏洩も良いところだなと思いながらその日のうちに東京へ戻り、翌日の午後にはその産婦人科へ向かった。
病院はビルの一角にあった。静かな室内には夫婦で来ている者や女性一人の者、既にお腹が大きかったり、まだ学生のような者までがピタリと口を閉ざしてソファに座っている。院内に流れるオルゴールの音楽だけが浮きだって聞こえた。赤井が受付へ向かい番号札を受け取る。229番。ソファに同じように座っているべきだろうと振り返ると、天井から声が聞こえる。スピーカーで番号を呼び出すシステムらしい。
『番号229番の患者さん。診察室3番へどうぞ』
今まさに受け取った番号を読み上げられ、ならばソファに座っている人間は全て診察が終わっているのかと思いきや、数人は容態を記すバインダーを持っている。
赤井は呼ばれたままに、診察室3番へと向かった。医師は見ているのだろう。監視カメラがあったはずだ。話は通してあるからと言ったものの、あの老婆はどこまで喋ったのか。
スライド式のドアを開けると、ピンク色の白衣を着たふくよかな女性が振り返る。
「いらっしゃい。話は聞いています。貴方がパートナーの方?」
「パートナー?」
「あら、何。どういうことなの? 何も言わないであの子どこか行っちゃったの?」
ムッとした女医は、傍らの看護師に「ちょっと時間かかるから、後の患者さんは2番と1番に回して。急用があったら来てください」と早口で告げた。看護師は頷いて出ていく。
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◎たなは◎(プロフ) - キスマイさん» 初めましてこんばんは。最後まで読んでいただいて本当にありがとうございます。感想をいただけて嬉しく思います。この嬉しさは今後の糧になります。本作は終わってしまいましたが、よろしければ他作でもお会いできることを楽しみにしております。 (2018年6月23日 22時) (レス) id: b9c1cce9d4 (このIDを非表示/違反報告)
キスマイ(プロフ) - はじめまして。最後までとても楽しませて頂きました。素敵な小説ありがとうございました。 (2018年6月7日 0時) (レス) id: 64045badf0 (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - はなさん» お褒めのお言葉ありがとうございます。楽しんで頂けたようで何よりです。これからも精進して行きますので、お時間許す限りお付き合いくだされば嬉しいです。 (2018年4月4日 17時) (レス) id: b9c1cce9d4 (このIDを非表示/違反報告)
はな(プロフ) - しっかりとした文章に作者さんは頭のいい方だなと思いながら読んでいました。表現や比喩の仕方もなかなかでとても楽しかったです。ありがとうございました! (2018年4月1日 2時) (レス) id: 0b253d056d (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - アカさん» 楽しんで頂けてとても嬉しいです。ありがとうございます。続編とまではいきませんが、番外編を後日、他作のSS缶詰の方へ掲載できればと考えておりますので今しばらくお待ちください。これからもどうぞよろしくお願いします。 (2018年3月31日 20時) (レス) id: b9c1cce9d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:◎たなは◎ | 作成日時:2018年3月22日 1時