通達 ページ5
葉山と鷹守は早々に打ち解け合うと、短い安定期を買い物や観光に費やした。ある程度の運動と、栄養摂取。それからリフレッシュにはもってこいで、新しい環境でも鷹守は楽しんで生活していた。葉山は志保から全ての事情を聞いていたらしく、彼女は赤井の顔写真まで持っていた。彼から身を隠せばいいんでしょう、任せろ。そう言った葉山のなんと心強いことか。
だが、安定期もしばらくした頃、降谷から電話が入った。職場らしい、周囲の音がざわめいている。懐かしいざわめきに、しかし緊張感が高まった。
『悪い、赤井がお前のことを探し始めている。理由はわからないが、仕事をやめた理由を家庭の事情と言ったら実家の場所を聞いてきた。バレるのも時間の問題だと思う。やれる事はやるが、とりあえずは日本にいるだろうから、出国の動向が見えた時点で報告する』
それからお腹の子のことをいくつか心配され、元気そうで何よりだと言ってから電話は切られた。
マグカップ片手にホットミルクを作っていた葉山が「なんかあったー?」と間延びした声で尋ねてくる。この適当な雰囲気に、鷹守は何度も助けられていた。跳ねる心臓を落ち着かせながらブランケットをお腹まで引き上げる。
「赤井、私が辞めた事を不審がって調べ始めてるって」
「あらら。でも赤井は今、日本なんでしょ。まあまだあの小さな島国にいるなら大丈夫」
「日本から動きそうな時にまた連絡してもらうことにした」
「そうそう、そのくらいでいいのよー」
はい、とホットミルクを差し出され、両手で受け取る。温かいそれを、そっと啄ばむように飲みながら考える。ここを離れることに事になったら、行く当ては無い。どう新しい土地で居場所を掴んでいきつつ身を隠すか。そういうことも考えておかなくては。白い水面が湯気に柔らかく揺れる。
「もしこの場所が割れるようなことがあったら、その時は二人で逃げよう。ついて行くさ」
だから、心配しないこと。葉山の手は細く美しい。いつだってその手は荒れていて痛々しいが、その傷の多さは彼女の努力の証だ。美しさには誰にも負けないだろう。そんな手に、こんな年になって頭を撫でられた鷹守は恥ずかしさと嬉しさに笑った。この子も、このくらい優しく育ててみせよう。
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◎たなは◎(プロフ) - キスマイさん» 初めましてこんばんは。最後まで読んでいただいて本当にありがとうございます。感想をいただけて嬉しく思います。この嬉しさは今後の糧になります。本作は終わってしまいましたが、よろしければ他作でもお会いできることを楽しみにしております。 (2018年6月23日 22時) (レス) id: b9c1cce9d4 (このIDを非表示/違反報告)
キスマイ(プロフ) - はじめまして。最後までとても楽しませて頂きました。素敵な小説ありがとうございました。 (2018年6月7日 0時) (レス) id: 64045badf0 (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - はなさん» お褒めのお言葉ありがとうございます。楽しんで頂けたようで何よりです。これからも精進して行きますので、お時間許す限りお付き合いくだされば嬉しいです。 (2018年4月4日 17時) (レス) id: b9c1cce9d4 (このIDを非表示/違反報告)
はな(プロフ) - しっかりとした文章に作者さんは頭のいい方だなと思いながら読んでいました。表現や比喩の仕方もなかなかでとても楽しかったです。ありがとうございました! (2018年4月1日 2時) (レス) id: 0b253d056d (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - アカさん» 楽しんで頂けてとても嬉しいです。ありがとうございます。続編とまではいきませんが、番外編を後日、他作のSS缶詰の方へ掲載できればと考えておりますので今しばらくお待ちください。これからもどうぞよろしくお願いします。 (2018年3月31日 20時) (レス) id: b9c1cce9d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:◎たなは◎ | 作成日時:2018年3月22日 1時