帰宅 ページ29
ただいまー、という声に張り詰めた緊張の糸がピィンと揺れる。この緊張の糸、切れたらどうなってしまうのだろうかと鷹守は恐ろしく思いながら、広大なマンションの部屋に通される。眼下に広がるテムズ川は今日も人でいっぱいだ。
ソファに座ると、対面して美しい女性が腰掛けた。ブロンドに、綺麗な体つきに似合った服装。そして、真純にも赤井にもよく似た顔立ち。彼と同じ翡翠が埋められた瞳が、きらりと輝いた。
「初めまして、A。真純と秀吉、秀一の母、メアリーだ」
「初めまして。鷹守Aです。日本警察に勤務していました」
「ほう、公安か。…………それで、真純。最近お前が隠していた何かと関係があるんだな」
秀一が来てから何か様子がおかしいと思っていた、とメアリーが言う。
「そのお話は、私からさせてください」
「ふむ、聞こう」
「で。」
メアリーの目は怒りに燃えていた。
「秀一は愛した女に手をつけ、妊娠させ、挙句それを言えない状況に追い込んで、しかもそれを知らずに君を追いかけている。どういうことだな？」
「そうそう！」
「違う違う」
前後半誤解ですよ、と声をあげた鷹守に「だが事実だろう？」とメアリーが返す。いや、まあそうだけども。
「事実ですが、しかし私の方に非があります。妊娠したことを伝えず、勝手に国外へ出て、出産しました」
「妊娠告知も出国も出産も、種となった相手の承諾は法律上必要ない」
「それを言うなら避妊具を使用しない性行為も、人探しも法律上問題ありません」
「いいや、母として聞き捨てならん。それに、先日電話を寄越したのは君だろう。あの馬鹿息子から逃げるための出国前に、私に何かを話すため」
電話。真純は首をひねった。そう言えば、記憶にある。まだ赤井が渡英してくる前、電話があった。母であるメアリーがとって、少し深刻そうに話していたのを思い出す。あの電話は、鷹守だったのだ。
「声を覚えている。出産は私も経験したからわかるが、色々と大変な思いをしただろう。男手が欲しい時など日常茶飯事なのに、よく一人で乗り越えた」
「ありがとうございます。でも、一人ではありませんでした。友人も、元同僚も元上司も、よくしてくれました。妊娠出産を知る人間は明らかに一般の妊婦よりは少なかったでしょう。でも、人一倍幸せを受け取った自信はあります」
「そうか。それなら良い。安心した」
メアリーは微笑む。
「君は、これから家族だ。A」
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◎たなは◎(プロフ) - キスマイさん» 初めましてこんばんは。最後まで読んでいただいて本当にありがとうございます。感想をいただけて嬉しく思います。この嬉しさは今後の糧になります。本作は終わってしまいましたが、よろしければ他作でもお会いできることを楽しみにしております。 (2018年6月23日 22時) (
レス) id: b9c1cce9d4 (このIDを非表示/違反報告)
キスマイ(プロフ) - はじめまして。最後までとても楽しませて頂きました。素敵な小説ありがとうございました。 (2018年6月7日 0時) (レス) id: 64045badf0 (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - はなさん» お褒めのお言葉ありがとうございます。楽しんで頂けたようで何よりです。これからも精進して行きますので、お時間許す限りお付き合いくだされば嬉しいです。 (2018年4月4日 17時) (レス) id: b9c1cce9d4 (このIDを非表示/違反報告)
はな(プロフ) - しっかりとした文章に作者さんは頭のいい方だなと思いながら読んでいました。表現や比喩の仕方もなかなかでとても楽しかったです。ありがとうございました！ (2018年4月1日 2時) (レス) id: 0b253d056d (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - アカさん» 楽しんで頂けてとても嬉しいです。ありがとうございます。続編とまではいきませんが、番外編を後日、他作のSS缶詰の方へ掲載できればと考えておりますので今しばらくお待ちください。これからもどうぞよろしくお願いします。 (2018年3月31日 20時) (レス) id: b9c1cce9d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：◎たなは◎
| 作成日時：2018年3月22日 1時
