鈍足 ページ20
粗方の買い物を済ませ、赤井と真純はマーケットに向かう。今夜の食料と、飲み物と、頼まれていた生活雑貨を見て回っていた。
「真純、洗剤はこれか」
「そのシリーズの青い方」
赤井がカートから少し離れ、青いパッケージの洗剤を手にとった。カートの方を振り返ろうとした時、そこに人がいる事に気付かなかった。赤井の右肘と女性の背中が接触する。
「おっと、失礼」
「あぁ、すみません」
その声に、確実な聞き覚えがあった。思い出すのに一歩、思い出して一歩。赤井は振り返る。
「あ」
女の姿が消えている。同じ青いパッケージの洗剤と、少しの食料品、それからオムツの入ったカートを残したまま。
赤井は真純とカートを残して走った。出口の方を見ると、ぶつかった女が出て行く後ろ姿を見つける。赤井はここで思った。FBIで良かった。訓練を受けられる身でよかった。体力と筋力には自信がある。持ち合わせている全ての脚力を足に込め、赤井は女の後ろ姿を追いかけた。
「行っちゃった…………秀兄なんだったんだ？」
もしかして、あの女の人が秀兄の言ってた未来のお嫁さん？ ちゃんと顔を見ておきたかったなぁ、と真純は思いながら転がった洗剤をカートに入れる。後は何を買うんだったっけ、と受け取っていたメモを見ていると、洗剤の陳列された棚の影からふらりと人影が出てくる。何かを抱えているようだが、よく見れば子どもを抱えているらしい。胴から胸前までに括り付けられたベビーキャリーでよく見えなかった。顔も黒いキャップを被っているせいで目元が見えない。ただ、その顔立ちは美しく、東洋の血が流れていることは見て取れた。
女性は置き去りにされたカートを見て、そして真純を見ると小さく息を飲んだ。
「…………ここにいた女性を知らない？」
キャップを目深く被った、子どもを抱えた女性に尋ねられ、真純は出口の方を振り返る。
「なんだかよくわからないんだけど、僕の兄が追いかけて行っちゃったんだ。あ、もしかしてあの人？ っていうか、秀兄何やってんだろ」
店の出口近くで、赤井が女の方をガタガタ揺らしながら何かを問いただしているらしい。真純は兄の不躾な行動に眉根を寄せて、駆けつけようか迷った。しかし、子どもを抱えた女性にカートを見張っていてと言うのも気がひける。周囲には他に声を書けられそうな人間も見当たらなかった。
帽子を被った女性が、出口でのやりとりを遠くに眺めながら呟く。
「案外鈍足だな」
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◎たなは◎(プロフ) - キスマイさん» 初めましてこんばんは。最後まで読んでいただいて本当にありがとうございます。感想をいただけて嬉しく思います。この嬉しさは今後の糧になります。本作は終わってしまいましたが、よろしければ他作でもお会いできることを楽しみにしております。 (2018年6月23日 22時) (
レス) id: b9c1cce9d4 (このIDを非表示/違反報告)
キスマイ(プロフ) - はじめまして。最後までとても楽しませて頂きました。素敵な小説ありがとうございました。 (2018年6月7日 0時) (レス) id: 64045badf0 (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - はなさん» お褒めのお言葉ありがとうございます。楽しんで頂けたようで何よりです。これからも精進して行きますので、お時間許す限りお付き合いくだされば嬉しいです。 (2018年4月4日 17時) (レス) id: b9c1cce9d4 (このIDを非表示/違反報告)
はな(プロフ) - しっかりとした文章に作者さんは頭のいい方だなと思いながら読んでいました。表現や比喩の仕方もなかなかでとても楽しかったです。ありがとうございました！ (2018年4月1日 2時) (レス) id: 0b253d056d (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - アカさん» 楽しんで頂けてとても嬉しいです。ありがとうございます。続編とまではいきませんが、番外編を後日、他作のSS缶詰の方へ掲載できればと考えておりますので今しばらくお待ちください。これからもどうぞよろしくお願いします。 (2018年3月31日 20時) (レス) id: b9c1cce9d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：◎たなは◎
| 作成日時：2018年3月22日 1時
