【名探偵コナン】逃紡劇【赤井秀一】

出産 ページ12

安定期が抜けてもう二ヶ月が過ぎた。体の重さはこれまでになく重く、しかしこの重さも人間一人の命が宿っている事への尊さに嬉しさを感じる。腰痛に悩まされながら、出産予定日を着々と近づけている間に日本では降谷と宮野が大変頑張ってくれているらしい。赤井が探し始めたと安定期に言われ、葉山にそれを告げると「居場所がバレるわけ無いじゃん」と言い切られた。それもそのはず、ここはマンションの地下にある部屋で、元々葉山が研究室として使っていた部屋でもある。

　家というには壁がコンクリート打ちっぱなしという殺風景さだが、部屋というには広すぎる。しかも、三歩歩けば足元にプランターの花々や観葉植物、挙句には別の部屋に温室まで造られているくらい。彼女は宮野から「医者よ」と聞いていたが、多分医者は彼女の一部であって何かの研究員だったのだろう。最近まで植物に関する事かと思っていたが、先日大量の科学書と人間医学書が出てきて、なるほどこれはただの医者では無いと鷹守は静かに理解した。

　不信感は抱かなかったのは、宮野の紹介だったからという事もあるが、一番は彼女の性格にあった。いつだって楽しげで、側にいても安心する。変な人間であることに変わりないが、そのあっけらかんとした明るい性格は不安を和らげてくれた。宮野も多分、この楽天家で明るくて、分け隔てない人間を好いたのだろう。


　ぽこぽこ蹴ったり跳ねたりする腹を撫でながら、いくつもの日を過ごした。雨の日も風の日も、気持ちよく晴れた日も。側には常に葉山がいて、日本には降谷も宮野もいた。




　雨の多いイギリスに、久しぶりの晴れ間が見えた日、子どもは産まれた。




　3288gの男の子は、鷹守Aの腕の中で元気よく泣いた。

報告→←近隣

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す