発覚 ページ1
言葉を失った。その赤い線が、鷹守には恐ろしく見えた。どうしよう。どうすればいい。
新しい命が宿っている腹部を押さえ、耳の横で鳴り響くような鼓動を聞く。どうすればいい。
鷹守は赤い線を見下ろして、下唇を噛んだ。この一、二週間だるさと微熱が続いた。生理が遅れていたことはストレスや生活の仕方からよくあることだったため気にしていなかった。しかし軽い風邪だと思っていた症状が、いつまでたっても引かない。おかしい。万が一。万が一があるのであれば、早めの検査をしなければならない。封を開ける時の指先は震えていた。
それで、今がある。どうだろう、このくっきりとした赤い線。まるで臍の緒のように伸びるそれを、鷹守は困惑の塊を溶かした視線で見下ろす。いるのだ、新しい命が、ここに。
それは大変に喜ばしいことだと鷹守自身わかっている。赤い線。嬉しさははち切れんばかりにある。しかし。
「あの行為に、愛なんてあったのかな」
愛が何かどうかさえよくわからないまま、ベッドを共にした男は今日本にすらいない。遊びというよりはただの行為に過ぎなかったあの夜に、この対価。どうすればいい。
産むべきか。堕ろすべきか。答えは早かった。
トイレから出た鷹守は検査薬を丁寧に処分し、部署へ戻る。配慮に配慮を重ねた結果、別のフロアのトイレを使ったため仕事場に戻るため階を上がらなければならない。三階分くらいなら階段で行こう、と鷹守は階段へ続く道を歩きながら、いやでもお腹の子に何かあったら困るかなとエレベーターのボタンを押していた。その時に確信する。これ、産むわ。私、この子を産むつもりでいる。
そこからの鷹守は早かった。それはそれは早かった。
その日の仕事を机仕事に留め、定時に上ると産婦人科へ駆け込んだ。過去に捜査や潜入の時に使うためピルなどを処方してもらっていた馴染みの産婦人科医に調べてもらえば、一発。
「おめでとうございます。妊娠五週目です」
にっこり笑顔で書類から顔を上げて告げた産婦人科医は、鷹守の顔を見て少し表情を暗くした。
「おめでたいことなのよ。深くは聞かないけど、パートナーの方には言うつもりなの?」
「…………」
「産婦人科医という職業の人間から言えばね、パートナーの人に報告して欲しい。でもね、一個人としては」
寂しげな笑顔で産婦人科医は言った。
「それが貴女が産むことを妨害する結果になるなら言わなくてもいいんじゃないかしら」
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◎たなは◎(プロフ) - キスマイさん» 初めましてこんばんは。最後まで読んでいただいて本当にありがとうございます。感想をいただけて嬉しく思います。この嬉しさは今後の糧になります。本作は終わってしまいましたが、よろしければ他作でもお会いできることを楽しみにしております。 (2018年6月23日 22時) (レス) id: b9c1cce9d4 (このIDを非表示/違反報告)
キスマイ(プロフ) - はじめまして。最後までとても楽しませて頂きました。素敵な小説ありがとうございました。 (2018年6月7日 0時) (レス) id: 64045badf0 (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - はなさん» お褒めのお言葉ありがとうございます。楽しんで頂けたようで何よりです。これからも精進して行きますので、お時間許す限りお付き合いくだされば嬉しいです。 (2018年4月4日 17時) (レス) id: b9c1cce9d4 (このIDを非表示/違反報告)
はな(プロフ) - しっかりとした文章に作者さんは頭のいい方だなと思いながら読んでいました。表現や比喩の仕方もなかなかでとても楽しかったです。ありがとうございました! (2018年4月1日 2時) (レス) id: 0b253d056d (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - アカさん» 楽しんで頂けてとても嬉しいです。ありがとうございます。続編とまではいきませんが、番外編を後日、他作のSS缶詰の方へ掲載できればと考えておりますので今しばらくお待ちください。これからもどうぞよろしくお願いします。 (2018年3月31日 20時) (レス) id: b9c1cce9d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:◎たなは◎ | 作成日時:2018年3月22日 1時