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11月8日の最終 ページ5

「これ、というのは」
「この状況です。着替えさせてくれたことには感謝しますが」
「いいスーツだな。君に良く似合っていた」
「どうも」
「あのスーツは君が選んだのか」
「あれは友人が」
「ほー」

 笑顔の奥にある翡翠の目が、濁ったように溶けた。三守は顔に出さないものの、背中に氷を入れられたような気分になった。

「友人、な」
「それがどうかしたんですか。それより、質問に答えてください」
「質問? あぁ、この状況に対して」
「そうです」

 男は一度、ふ、と笑った。目線を床に落とし、それから、形の良い唇で弧を描き、振り返った。
きし、と小さな声で鳴いたベッド。男は寝具に乗り上げると、楽しげな目で近づいてくる。獲物を前にした百獣の王がするり、するりとやってくる。
 三守は思わず、後退した。相手は男だ。力の攻撃は勝ち目がない。状況が正確ではない今、立ち上がって相手を触発させることはやるべきことではないと頭のサイレンが鳴り響く。

「君は」

質の良いシーツが男のスラックスに触れて布擦れる。
赤井が一歩、前へ。
三守が一歩、後ろへ。
赤井が一歩、前へ。
三守が一歩、後ろへ。
それを三度、四度ほど繰り返した時、絶望の冷たさが背中に触れた。思わず息をのむ。

壁が、あった。

だが目の前には既に、捕食者の王。美しかったはずの瞳は、どうしてか、ひどく濁って見えた。

「君は、もう俺のものだ」
「……は」
「そうだ、もう君は、俺のもの」
「何を言って」
「もうずっと待った」

男の手が、三守の手首に触れる。三守はそれを振り払おうと手を上げたが、それもまた、仇となった。
骨ばった、男の大きな手が三守の細い腕を絡め取ると、勢いよく引き寄せられた。
突然の衝撃に体がこわばり、手が宙を裂く。額が男の鎖骨にあたり、顔を上げると、鼻と鼻が触れ合う距離に、赤井秀一はいた。

「なあ、ずっと待ったんだ」
「待ったって」
「待ったさ。君はいつまでたっても返事のひとつすらくれず、挙げ句の果てに他の男と楽しげに話していた。あてつけか……それともなんだ」

三守は恐怖を感じた。色のない瞳が、飲み込まれるほどに、三守を見つめている。
思わず身を引こうと力を込めると、左手首に絡みついた大きな手がギシリと嫌な音をたてた。折れる、これは折られる。

正直、手の一本や二本、どうってことない。この正気の沙汰ではない男を目の前に、今は逃走することが最善だったが、立地のわからぬこの場所で、どうやって。

11月9日→←11月8日深夜



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シルフィ - めっちゃ好きです!更新楽しみにしてます! (1月28日 17時) (レス) @page8 id: 5010c918af (このIDを非表示/違反報告)
ねねね - すごい好み! (2020年3月6日 17時) (レス) id: d3b33fa87c (このIDを非表示/違反報告)
merion(プロフ) - とっても面白いです!!更新待ってます!! (2018年3月15日 20時) (レス) id: 29c216d5d4 (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - 裏切りのかすてら王子さん» コメントありがとうございます。更新させていただきました。長らくお待たせして申し訳ありません。楽しんでいってくだされば嬉しいです。 (2017年7月22日 14時) (レス) id: 8b768110c2 (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - 茅乃さん» コメントありがとうございます。長らくお待たせしてしまい、申し訳ありません。楽しんでいただけたら幸いです。 (2017年7月22日 14時) (レス) id: 8b768110c2 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:◎たなは◎ | 作成日時:2017年5月27日 15時

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