11月10日午前10時30分 ページ13
スプーンを手にした赤井は、またもソファに腰掛けやわらかいオムレツを掬うと、ぱくりと食べてみせた。嚥下をする時の、喉仏の動きが生々しく感じ、三守は顔を背けた。口を開けば、ねじ込まれるだろう。真一文字に口を引き結ぶ。
「ほら」
「…………」
「それとも玉子は嫌いか」
「…………」
「どちらにせよ食べてもらわねば困る」
「…………」
困ったような溜息が、聞こえた。諦めたか。そう思った、 次の瞬間。
伸びてきた手が的確に捉えたのは、三守の鼻だった。
「ンッ!?」
酷い力で捉えられた鼻は空気を通さない。手足をバタつかせて抵抗するも、過去の自分を呪ったほうが早い。ソファの隅ではどうにもこうにも動きづらく、赤井の長い脚が胴に巻き付き身動きすらとれなくなった。
とうとう息も苦しくなり、酸素が恋しくなる。思わずハッと口を開くと、スプーンではなく赤井の顔が近づいてきた。
「んぐ」
口内に滑り込んできたのはオムレツだ。咀嚼されたそれは、容易く三守の口内に旨みを広げた。唇は繋がったまま、欲しい酸素は与えられずに三守は呻く。赤井の脚から脱出した手は、その頬を殴るでも、鳩尾に埋まるでもなく、力弱く赤井の胸板を押した。まあ、無力に終わったのだが。
厚い胸板はびくともせず、むしろぐっと追い詰められた。赤井の舌が歯列をなぞる。飲め、飲み込め、と催促するように唾液が送られる。
口から唾液が溢れ、生ぬるい液体が首筋を伝ったとき、三守は限界を思い知り、喉を動かした。ごくりと喉を通過した食事が胃へと到達するのを感じながら、上がった息と酸欠にやや痺れた手足をソファに力なく放り出して酸素を吸う。
「食べれるじゃないか」
「く、そ」
「こうしないと食べないのか?」
「んなわけ、」
は、は、と肩が跳ねる。危なかった。頭まで白くなったあたりで、これは死ぬと確信した。今のところ体に異変はない。勿論息の根を止めそうにしてきた行為に関しては考慮していないが、本当に死ぬかと思った。こんな死に方真っ平御免。
息絶え絶えに、酸欠で涙のたまった目で赤井を睨みあげると、男は目をぱちくりさせてから、ふっと笑った。どうにもその笑顔は気味が悪い。
「はは、絶景だな」
思わず脚が鳩尾を狙ったことについては、不問にしていただきたい。
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シルフィ - めっちゃ好きです!更新楽しみにしてます! (1月28日 17時) (レス) @page8 id: 5010c918af (このIDを非表示/違反報告)
ねねね - すごい好み! (2020年3月6日 17時) (レス) id: d3b33fa87c (このIDを非表示/違反報告)
merion(プロフ) - とっても面白いです!!更新待ってます!! (2018年3月15日 20時) (レス) id: 29c216d5d4 (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - 裏切りのかすてら王子さん» コメントありがとうございます。更新させていただきました。長らくお待たせして申し訳ありません。楽しんでいってくだされば嬉しいです。 (2017年7月22日 14時) (レス) id: 8b768110c2 (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - 茅乃さん» コメントありがとうございます。長らくお待たせしてしまい、申し訳ありません。楽しんでいただけたら幸いです。 (2017年7月22日 14時) (レス) id: 8b768110c2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:◎たなは◎ | 作成日時:2017年5月27日 15時