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それは、降谷とどうしても離れない美樹のことであった。
彼女は迷宮の中でさえ、時折「安室さぁーん？」と声を張り上げるのだった。その声は甲高く、黒板を引っ掻くような声であり、降谷にとって苦痛でしかなかった。頭痛の原因は彼女の声で、帰るときの合図もそれであった。
降谷は半休の全てを本屋に費やしたものの、まとわりつく美樹のおかげで随分と疲れたものになってしまった。
そのためか、降谷はその日の帰り、美樹を自宅まで送り届けると、彼女に真正面から静かに、しかし淡々と冷徹な声で告げた。
「あなたとは、もうこれ以上お付き合いすることはできません」
美樹も頭の悪い女ではなかった。ただ彼女も不器用で、それでいて欲しいものは欲しいと言える子であるだけで、その冷ややかな声を聞いてすぐ、あきらめがついた。
そして、ふと心の片隅に燻る炎の子供をみつけ、すぐさまそれを拾い上げると、降谷につき出してみせた。
「もしかして、Aのことが好きになりましたか？」
降谷の瞳は冷徹なまま、動かなかった。首を振ることも、縦に動かすこともせず、ただ静かに、いいえ、と答えた。
「一目惚れはしない質ですから」
「じゃあ、なんで」
「僕は仕事で手一杯なんです。不器用ですから、仕事も女性もなんて、無理な話なんですよ。勿論美樹さんは一つも悪くないので、お気になさらないでください。今日は素敵な場所をご紹介くださって、ありがとうございました」
踵を返して家を後にしようとした降谷を、美樹は叫ぶように呼び止めた。装飾豪華な門扉で隔たれた二人は、まるで一見ロミオとジュリエットのように見えたかもしれないが、降谷にとって億劫な声でしかなく、胸のそこから苛立ちを感じさせるただの騒音でしかなかった。
降谷は小さく振り返った。
「お見合い、お受けしないのですか。私以外の人も」
「えぇ」
「……Aであっても」
「えぇ」
「そう、ですか。わかりました」
美樹は静かに門から手を離し、降谷に背を向け、玄関へと吸い込まれていった。重圧なドアの向こうで聞こえた「ただいま」の声は、気丈に振る舞う健気さが垣間見え、だがしかし、降谷はその声など聞いていなかった。
静かな空は夕日をしまい込み、星屑を空にぶちまけはじめた。
降谷がその片付けもしない星を眺めながら歩いていると、己の足音に混じって他者の音が聞こえ、降谷は静かに歩を止めた。
細道の角には、ビショップが佇んでいた。
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tunatoromeji(プロフ) - 作者さんの紡ぐ言葉がとても好きです、だから他の作品も好きでした！この作品は本屋さんの雰囲気とかマスターとかチェスとさ私の好きな要素満載なので更新を楽しみに待ってます！応援してます！！ (2017年12月27日 14時) (
レス) id: 21a405ecbb (このIDを非表示/違反報告)
くうらぎ(プロフ) - 確かに降谷さんって結婚したくないとか思ってそうなタイプですよね。妹さんがどんな人なのか気になります。今後の展開が待ち遠しいです。 (2017年6月1日 14時) (レス) id: 3cf57895d6 (このIDを非表示/違反報告)
あんこ - 降谷はこんな人じゃないしー (2017年5月31日 23時) (レス) id: b2dbe2074b (このIDを非表示/違反報告)
りん - このあとどうなるか知りたい続きが楽しみにしてます頑張ってください (2017年5月31日 22時) (レス) id: aa9084d7b6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：◎たなは◎
| 作成日時：2017年5月31日 18時
