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「おぉ、お疲れ、ビショップ」
ビショップと呼ばれた女性は左手に古い本を抱えていた。ハードカバーの、英文字が配列している分厚い書物。
降谷は流れるようにその表紙に綴られた金の箔押しを見て、またも驚いた。今度は声を出しそうなほど。
それは、紛れもない「シャーロック・ホームズ」の英本。
随分と古いもので、貴重なものである。当然だが原本ではないが、印刷回数が初期段階の頃のものは、読んできた人々の歴史と思い出が価値だとも評価されている。
趣味は読書と美樹には言ってあったものの、ただの口実だっただけである。別に趣味で読書のために本に費用を注ぎ込むとか、そういったことはしたことがない。
ただ、ミステリーは好きだった。シャーロキアンというほど固執したり執着したりはしていないが、読みたいとは思う程には好きなのだ。
ビショップは黒い細身のスキニーパンツに白いシンプルなブラウスという、その名に似合った色合いの格好をしていた。そして、脛あたりまである黒いエプロンを着用し、靴も黒という、まさにチェス盤のような服装。
エプロンの胸元には小さなシルバーのバッジがついており、そこに、高さ三センチか四センチ程の砂時計がぶら下がっている。
「あれ、姉さん」
「A! 連れてきちゃった」
美樹が降谷の元を離れ、ビショップ……Aのところへ駆け寄った。それから、何か耳打ちをして、Aもそれにふむふむと数回頷いてから、ちらりと降谷を見て、またふむふむと美樹の言葉に耳を傾ける。
「ねっ?」
「うん」
何か一段落したような美樹の声に頷いたAは、降谷の方へやってくると、にこりと笑って挨拶をした。
「はじめまして、お噂はかねがねお伺いしております。山川Aと申します。……姉が、お世話になっているようで」
「安室透です。素敵なお姉さんですね」
「はは、ありがとうございます。読書がご趣味なんだとか。お好きに見て回ってください。鍵のかかった部屋だけは、無理に入らないよう、お願いします。梯子も使用していただいて構いませんが、お怪我にはお気を付けください」
「すごい本の数ですね。迷路のようで、迷いそうです」
降谷がおどけて言ってみせると、Aは笑顔をほんの少しだけ薄めて、高い天井を見上げた。
対峙する本の壁を繋ぐように、渡り廊下が交差するそこは、どうにも違う世界のように、降谷には見えた。
「本当に迷われる方はいらっしゃいます。お気をつけください」
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tunatoromeji(プロフ) - 作者さんの紡ぐ言葉がとても好きです、だから他の作品も好きでした!この作品は本屋さんの雰囲気とかマスターとかチェスとさ私の好きな要素満載なので更新を楽しみに待ってます!応援してます!! (2017年12月27日 14時) (レス) id: 21a405ecbb (このIDを非表示/違反報告)
くうらぎ(プロフ) - 確かに降谷さんって結婚したくないとか思ってそうなタイプですよね。妹さんがどんな人なのか気になります。今後の展開が待ち遠しいです。 (2017年6月1日 14時) (レス) id: 3cf57895d6 (このIDを非表示/違反報告)
あんこ - 降谷はこんな人じゃないしー (2017年5月31日 23時) (レス) id: b2dbe2074b (このIDを非表示/違反報告)
りん - このあとどうなるか知りたい続きが楽しみにしてます頑張ってください (2017年5月31日 22時) (レス) id: aa9084d7b6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:◎たなは◎ | 作成日時:2017年5月31日 18時