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赤井秀一は、その蔵書の数に驚かされていた。アメリカにいた時はあまり本屋に立ち寄ったことが無かったが、それでもホームズは好きで好きで、結局本だけは、と集めていた。
とある一件で全て焼けてしまったこともあり、自分の手元には今は少ない本たちだったが、こんなところでこんな貴重な書籍に巡り会えるとは、いつも信じない神に感謝のキスをしたいくらいだった。
赤井がふと、時計を見たとき目を剥いたのは言うまでもない。
頭上を振り仰ぐと、天井窓から入り込んでいたネオンの光までもが既に消えかかっている。薄暗い店内は、所々にある間接照明の仄明るい橙色が点を繋ぐのみ。時計の短針は既に文字盤の四分の一以上を走っていた。
来たときにはちらほらあった人の気配も、今ではなくなっている。
赤井は周りを見渡した。本当に人がいなくなり、そして自分が思っていた以上に時が早く進んでいることに驚いたまま、キシキシと小さく軋む階段を降りる。
階下で、物音が聞こえ赤井はその足をそっと止めた。ドアの開く音に次いで、閉まる音。この音は店内の入口にあったドアのものではない。
軽やかな足音は子どもの音で、その後ろを落ち着いた足音が追いかける。赤井は階段の途中で、本棚の間から視線を下に向けた。
まだエレメンタリースクール程の、だが妙に華奢な少年がマスターと呼ばれた老人に駆け寄っていく。その後ろを歩くのは、赤井にこの店のシステムを伝えに来た若い女性の店員、ビショップの姿。
華奢な少年がマスターのいるカウンターへ飛びつくと、マスターは読んでいた本を閉じて少年に笑顔を向ける。ビショップはマスターになにかを一言二言告げると、跪いて少年に話しかけ、口の動きからおやすみと言ったのだろう、ふっと笑いかけた。
老人が杖をつきながらカウンターを出て少年と一緒に奥へと消えていくのを見送ったビショップは、奥のドアが閉じる音を聞き届けてから、ほっと息をついた。
そして、ビショップは視線を上にあげた。迷わずその視線は、赤井を射抜く。
赤井はぎょっとした。いつから気づかれていたのか。
ビショップの唇が、少年に向けられた笑顔とは違う歪み方で、にぃっと弧を描く。
「もう夜も更けてますよ」
黒い服を身に纏うビショップは、床のコマをひとつひとつ、着々と歩むと階段をまたひとつひとつ、着々と昇り赤井の数歩先までやってきた。
「殺人事件には、ぴったりの夜ですね」
天窓から青白い月光が二人を照らした。
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tunatoromeji(プロフ) - 作者さんの紡ぐ言葉がとても好きです、だから他の作品も好きでした!この作品は本屋さんの雰囲気とかマスターとかチェスとさ私の好きな要素満載なので更新を楽しみに待ってます!応援してます!! (2017年12月27日 14時) (レス) id: 21a405ecbb (このIDを非表示/違反報告)
くうらぎ(プロフ) - 確かに降谷さんって結婚したくないとか思ってそうなタイプですよね。妹さんがどんな人なのか気になります。今後の展開が待ち遠しいです。 (2017年6月1日 14時) (レス) id: 3cf57895d6 (このIDを非表示/違反報告)
あんこ - 降谷はこんな人じゃないしー (2017年5月31日 23時) (レス) id: b2dbe2074b (このIDを非表示/違反報告)
りん - このあとどうなるか知りたい続きが楽しみにしてます頑張ってください (2017年5月31日 22時) (レス) id: aa9084d7b6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:◎たなは◎ | 作成日時:2017年5月31日 18時