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時計の針はまだ閉店時間を指していない。古書店の方はそろそろ店仕舞いが終わった頃らしく、ビショップはシャワーを済ませた玲司をマスターに預けに、二人で姿をバルから消した。

再度静寂に包まれた店内。この時間帯に店に訪れる人間はおらず、聞こえるのは遠くの自動車道を風のごとく走る車の引きつった音だけ。

 降谷はカウンターにいる若い女性に声をかけた。声音にも配慮したつもりだったが、女性は随分驚いたように肩を震わせて振り返る。
だが、口を開いたのは彼女の方が早かった。

「あの手紙を見て、Aは何もしなかったんです」

 瞳には、悔しそうな色が伺えた。どうして彼女が悔しそうなのか、降谷にはわかりそうで、しかしあと一歩足りない、もどかしい何かがわからなかった。

「何もしなかった、というのは」

 先程手にした手紙の紙質を指先に思い出しながら、降谷は尋ねた。

「脅迫状を受け取って、普通は怖がるか、馬鹿だったとしても面白がるとか、何かしら思うことがあるでしょう。そしてその手紙を、捨てるでも燃やすでも、警察に届けるでもするでしょう」
「まあ、普通は何かしらしますね」
「Aは何もしなかった。捨てるでも燃やすでも、警察に届けることもしなかった。ただ、その手紙を常に手元に置いて、ふとした時に思い出の写真を眺めるように取り出しては、また手元に仕舞うだけで」

 若い女性は、息をついた。随分とAのことを心配しているようである。

「で、どうしてこの話を僕に? マスターといい、あなたといい、僕がどうこうできるとは思えないのですが」

 降谷が珈琲に口をつけると、女性はきょとんとした表情で降谷を見て言った。

「でもお客様(あなた)、警察関係者なんでしょう」

 なるほど。山川美樹はそんなにも口の軽い女だったか。警察官の、しかも上層部の父をもってしてまでそんなにも気の利かない、阿呆な女だったか。
だがしかし、女性の口から言葉は続いた。

「よく後ろ手を組みますね。それも、直立するときに」

 降谷の視線は、女性に向いた。女性の目線は、降谷に向いた。

「警察学校で叩き込まれる、基本の姿勢だとか」

にっこり。そんな表現が一番よく似合う笑顔で、女性は笑った。

「ご協力してくださいますよね」

 降谷は思い出した。そういえば、赤井置きっぱなしだった、と。

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tunatoromeji(プロフ) - 作者さんの紡ぐ言葉がとても好きです、だから他の作品も好きでした!この作品は本屋さんの雰囲気とかマスターとかチェスとさ私の好きな要素満載なので更新を楽しみに待ってます!応援してます!! (2017年12月27日 14時) (レス) id: 21a405ecbb (このIDを非表示/違反報告)
くうらぎ(プロフ) - 確かに降谷さんって結婚したくないとか思ってそうなタイプですよね。妹さんがどんな人なのか気になります。今後の展開が待ち遠しいです。 (2017年6月1日 14時) (レス) id: 3cf57895d6 (このIDを非表示/違反報告)
あんこ - 降谷はこんな人じゃないしー (2017年5月31日 23時) (レス) id: b2dbe2074b (このIDを非表示/違反報告)
りん - このあとどうなるか知りたい続きが楽しみにしてます頑張ってください (2017年5月31日 22時) (レス) id: aa9084d7b6 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:◎たなは◎ | 作成日時:2017年5月31日 18時

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