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降谷は老人から受け取った一通の手紙を手にしながら、扉続きの隣の店へ足を向けた。本屋のことも気にかけ、そっとドアを開くと囁くような小さな音でリリン、とドア上に設置されていた鈴が鳴る。
「いらっしゃいませ」
静かな声が右側から流れてきた。そちらを向けば、黒髪を顎で前下がりに切りそろえた若い女性がカップを拭いていた。
降谷はコの字型をしているカウンターの一番隅に腰を下ろすと、コーヒーを注文してから本を開いた。文字を追いかけながら、腕時計の針を少し確認する。
コーヒーが出てきて、五分程度したあたりで、本に隠して受け取った手紙を開いた。
手紙は、よくある脅迫状であった。そこには山川Aの名前があり、お前を殺すという文面が端的に打ち込まれているだけ。
鼓膜を叩く雨音が徐々に酷くなっていく。来たときには降っていなかった雨も、今では本降りになったようだ。帰りが面倒になったな、と降谷は思った。
その時だった。
もうひとつある正面のドアのカウベルが、からんころんと鳴った。
カウンターの中にいた若い女性が顔を上げて「いらっしゃい」と言ってから、すこし目を丸くする。
降谷はそっと、入口の方を見るとそこには、ずぶ濡れのまま入口に立っている、まだ幼い男の子の姿。
男の子は、俯いたまま立ち尽くしていた。黒い髪からはポタポタと雨水が零れ、長い前髪から少し見える口はぎゅうっと力強く引き結ばれている。小さな両手はダボダボで擦り汚れたシャツの裾をぐっと握っているせいで、白く、小さく震えている。
女性店員は、拭いていたカップをその場に置いてカウンターを出ると、少年の前にしゃがむと言った。
「椅子にお座り」
少年は顔も上げず、微動だにせず、一切の動きを見せないまま黙り続けた。
女性は慣れているのか、「そう」と言うとゆっくり立ち上がり、カウンター内にある伝声管にそっと囁く。
「ビショップ、こちらチェック。素敵な雨ね」
一拍置いて、伝声管が震える。
『ありがとうチェック』
それから一分もしないで、続き扉の鈴が囁いた。りりん。
現れたのは、A。手には大きなタオルを持っている。少年はまだ、動かない。
Aは、持っていたタオルをふわっと広げると、少年を包み込み、そのまま抱き抱えるとカウンタースツールに腰掛けた。小刻みに震えるタオルの中で、少年は泣いていた。
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tunatoromeji(プロフ) - 作者さんの紡ぐ言葉がとても好きです、だから他の作品も好きでした!この作品は本屋さんの雰囲気とかマスターとかチェスとさ私の好きな要素満載なので更新を楽しみに待ってます!応援してます!! (2017年12月27日 14時) (レス) id: 21a405ecbb (このIDを非表示/違反報告)
くうらぎ(プロフ) - 確かに降谷さんって結婚したくないとか思ってそうなタイプですよね。妹さんがどんな人なのか気になります。今後の展開が待ち遠しいです。 (2017年6月1日 14時) (レス) id: 3cf57895d6 (このIDを非表示/違反報告)
あんこ - 降谷はこんな人じゃないしー (2017年5月31日 23時) (レス) id: b2dbe2074b (このIDを非表示/違反報告)
りん - このあとどうなるか知りたい続きが楽しみにしてます頑張ってください (2017年5月31日 22時) (レス) id: aa9084d7b6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:◎たなは◎ | 作成日時:2017年5月31日 18時