06 平和 ページ6
.
彼は、何も言わず鞄を探りはじめた。
そして、藍色のもっと濃く深いような色の煙草の箱を取り出す。
その箱には “Peace” と書かれていた。
『平和……』
「この煙草ショートピースって言うんやけど、知り合いがずっと吸っとってな。試しに一箱もらったけど俺には合わんかってん。Aちゃんには、こんくらいがええのかもしれんな。一本吸うてみ。」
タール量えぐいし両切りやから気を付けてな、と言われたがもちろん分かるはずもなく。
この人私が今日初めて吸うって知ってるのかな。
とりあえず、さっきと同じように火をつけて吸って、みた。
『………っ⁉』
さっきとの違いに身体が反応してごほっ、とまたむせてしまった。
けど、なにこれ。
さっきと同じようにバニラの甘い香りがする。
が、
決定的な違いは、濃さ。
キャスは軽く甘いってイメージだったけど、これは箱のパッケージ通りに、深く暗く、重い。
けど、バニラの甘さが綺麗に噛み合わさっていて。
肺の感じ方が全く違う。
『っごほっ、ごほっ、』
「言うたやろ、両切りやからきいつけやって。思い切って肺に入れると、さっき言っとったみたいに死んでまうで」
だから、両切りの意味がわからない。
『っ、私、初心者なんだけど』
「あー、ごめんごめん。普通の煙草はフィルターがついとるんやけど、ショートピースはついてへんねん。せやから葉巻吸うてるみたいなもの。肺に入れすぎるとドキツイんや。ゆっくり吸うてみ。」
その情報、もっと早くに欲しかった…
今度は、優しく、少しずつ吸ってみる。
キャスターとは違う苦み、重さ、甘さ。
私の求めていた煙草。
苦しさも、つらさも、紛れてしまいそうな。
思わず、口角が上がったような気がした。
目の前の彼は、嬉しそうな、悲しそうな、変な顔をしていた、気がする。
それからはショートピースを愛用することになった。
これが、私の初めての煙草。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1109人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
田那(プロフ) - すみれいんさん» すみれいんさんありがとうございます…！めちゃめちゃ励みになります！ほんま感謝しかありません。がんばります！ (2020年5月24日 12時) (
レス) id: f75390a3fa (このIDを非表示/違反報告)
すみれいん(プロフ) - ゆっくりでも大丈夫ですよ！都合もありますし、筆が進まないこともありますでしょうし…。読み返しもできます！なので無理のないよう、自分を追い込まないよう頑張ってください！ (2020年5月24日 6時) (レス) id: a715f4eb82 (このIDを非表示/違反報告)
田那(プロフ) - くうさん» くーちゃんありがとう。遅くなってごめん！そう言ってもらえるととても有り難い…！頑張るね！ (2019年8月5日 22時) (レス) id: 93fd3d14e4 (このIDを非表示/違反報告)
田那(プロフ) - ヨシフさんコメントありがとうございます。返信遅れてしまいすみません。とても嬉しいです！頑張ります！ (2019年8月5日 22時) (レス) id: 93fd3d14e4 (このIDを非表示/違反報告)
くう(プロフ) - ﾝﾝﾝﾝすき……自分のペースでええからね……浮かんでこーへん時ってあるよね……また待ってる……… (2019年5月8日 23時) (レス) id: 295f716bc6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
