４９ 乱と海翔 NO side ページ9
乱は縁側に居た。縁側に腰を掛け、自らが入れた茶を啜っていた。その隣に鬼丸が座る。「お前、こんな所で何してる」
「あ、鬼丸さん」
「どうした。昨日もここに座っていただろう」
「……最近あるじさんと一緒に居れてなくて。ボク、あるじさんの初期刀なのに……」
「なら、今からでも行って構って貰えば良いだろう」
「駄目だよ」乱は切ない表情で言った。「あるじさんは今、淤御国さんの事で手一杯なんだもん」鬼丸は、どこか遠くを見つめると、持参した茶を啜って、今度は乱の頭を優しく撫でた。「ん、ちょっと何……？」
「別に、何でもない」鬼丸は立ち上がって、自分の部屋へと向かって行った。乱は振り返り、その後ろ姿を見つめる。
「……鬼丸さんは優しいな……」
乱の声は、すとんと下に落ちた。
「乱？」
いつの間に眠っていたのだろうか。乱が目覚めると、そこには海翔と薬研が居た。寝そべって眠っていた乱を、しゃがんで見つめていた。
乱はすぐ様姿勢を戻して、海翔に笑顔で接する。「どうしたのあるじさん？ボクに何か用？」
「嗚呼いや。まだ風呂入ってないんだろ？薬研が乱をずっと待ってくれてたんだよ。で、どこにいるかなーって探してたら、縁側で寝そべってるからさ、起こしたって訳」
「そうだったんだ。ありがと薬研」
「礼なんていらねぇよ。それよりも、もうこんな時間だ。早く風呂入ろうぜ」
「うん！」乱は海翔と別れ、薬研と共に風呂に入りに行った。
海翔は、先刻言った堀川の言葉を思い出した。
「［淤御国］って…………本当は、［黄泉邑］なんじゃ……」
［黄泉］は、冥府、や、黄泉の国と呼ばれている死者の国だ。
［邑］は、よくないことになるのではないかと心配する。心を痛める。また、嘆き悲しむ。心の苦しみを人に訴える。自分の嘆きを人に告げる。病に苦しむ。患う。などの［憂うる］、［愁うる］、［患うる］という意味を持つ。
つまり、縁起の良い名前では無いのは確かだ。
そんな名前を付けるとは、当時の人間はジョークがとてもお好きだったようで。
…今まで様々な刀剣の事を知ってきたが、薬研のように主の腹を絶対斬らないと言われる刀も居れば、宗三のように籠の鳥な刀も居る。皆選り取り見取りな逸話を持ってんな。
兎にも角にも、日本刀は日本が誇るべきものだな。
淤御国にも、救いの手は必要だ。あいつは絶対、俺が助ける。
５０ 思い浮かぶあの人 ？side→←４８ 淤御国は…… 堀川side
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