８０ さようなら。 ページ45
『…っ、はっ…』
「相変わらず、二重刃格に頼りっ放しの様だな。茉莉守淤御国」
『……煩え。俺は"茉莉守淤御国"だ。…彼奴はもう、此処には居ねぇよ…！』
刃が交わる音が、愛登岸の周辺に存在する崖から、休む事無く木霊し続けていた。
対峙するのは、淤御国の二重刃格と、もう１振りの刀剣。太陽の所為か、しっかりとその姿を確認するのは容易ではない。
二重刃格が刀を振り下ろす。それを１振りの刀剣が防ぎ、押し返し、上から振り下ろす。更にそれを、二重刃格が防ぐ。それの繰り返し。
「………此方側に来ちまったか。茉莉守淤御国」
＿＿＿喋る、薙刀。
『そんな戯言は止せ』二重刃格が不意討ちを仕掛けようとするも、薙刀は見越した様に防ぎ、そのまま押し返す。二重刃格は蹌踉めき、後退する。崖ギリギリで踏み止まり、何も考えず下を見た。
崖はかなり高く急だ。此処から落下しようものなら、物であろうと人であろうと一溜りも無い。危険を察知した二重刃格は、体勢を立て直し、確りと刀を構え直した。
戦いはもう２時間以上続いている。長期戦に呼吸は乱れ、肩は上下を激しく繰り返す。対し、薙刀の呼吸は安定しており、肩も上下は僅かのみ。完全に、二重刃格は劣勢だった。
「…なあ、お前は何を見てきたんだ？茉莉守淤御国」
『煩ぇ。話すな…っ』
「お前の呪いにお前が屈して如何するんだ。屈してない奴等が居るというのに」
『…っ、喋るな…っ！頭が、痛いっ…』
「そりゃ、二重刃格のお前に全てを任せて塞ぎ込んだ茉莉守淤御国を起こす為に話しかけてるんだからな。頭が痛いのは当然だ。…茉莉守淤御国は、お前だから真価を発揮するのに」
薙刀は落胆した様な声を出すと、ゆっくりと二重刃格に近付いて来た。「…離、れろ…ぉっ……！」二重刃格が必死に声を絞り出すも、薙刀には届かない。
薙刀は冷酷な様相で、茉莉守淤御国の本体を捉えた。
「…俺は知っている。茉莉守淤御国が鍛刀された目的を」
『…そんなの…俺だって知ってる…っ』
「…なあ、二重刃格。…お前は何と戦っているんだ？」
『！！…如何いう事だ』
「そのままの意味だ」
二重刃格は不思議そうな表情を浮かべる。薙刀は呆れたかの様に溜め息を吐くと、先程よりペースを上げて、二重刃格に近付いた。…目的を察した二重刃格は、じりじりと後退した。「や、止めろ…」
突き刺す様な声が、行動と共に薙刀から漏れた。
「さようならだ、茉莉守淤御国」
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