呪われた刀剣は、愛されたかったようで。【刀剣乱舞】 (ページ35)

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７０　忌避も虚しく　ＮＯ side ページ35

淤御国は一振り、立っていた。

あの本丸の刀剣も審神者も、誰も来た事がない場所に。

－－－－年の、ある場所に。

『此処に来るとは。到頭決めちまったんだな。全てを呪ってしまう呪刀、茉莉守淤御国』ふと声が何処からか聞こえる。この声は誰かが発しているものなのだろうか。それとも、幻想と仮想で揺らめく音なのだろうか。

淤御国は無言で景色を眺める。

変わらない、この風景。あの主様と見た、絶望の風景。

『お前、如何する？お前の呪いの影響で執拗にお前の事を想ってくれる審神者海翔が、そしてあの刀剣達が、お前を捜して此処まで来たら。そしたら、お前は彼奴らに刃を向けるのか？向けるんだろ？向けるに決まってる！！』

『何故なら、お前はもう”コチラガワ”に来てしまったのだから！あっはははははは！！！』煩く響く何かの笑い声。淤御国は我関せずと、只風景を眺める。

ふと、心の中の二重刃格が声を発した。あの日以来、喋らなかった二重刃格が。〈本体、何故彼奴らを信じない！？彼奴らが本体の事を本気で救おうとしている事に気付いただろ！？彼奴らは、彼奴らはっ……本体の呪いに屈してなんかいないだろ！！！〉

『いーや、審神者海翔も刀剣達も、此奴の呪いに振り回された御可哀想な被害者、被害刀だ。二重刃格、お前も負けを認めろ。救いなんて、此奴にはありゃしないんだ』

〈そんな訳ない！だって、だって……沖田様も土方様も、本体を大事に扱ってくれた！だから本体は、大和守や加州、堀川に和泉守を慕ったんだろ！？〉

『もしかしたら、沖田様や土方様が此奴を大事に扱ってくれたのも、呪いの所為かもしれないぜ？"茉莉守淤御国は呪われた刀だ"って噂は、幕末にはもう有名だった筈だがなぁ？如何だよ二重刃格』

〈違う、違うっ……沖田様は、土方様は、心から、本当に本体を大切に扱ってくれてた……扱ってくれたんだ…！！頼む本体、もう一度戻ろう、あの本丸に…！〉

「…」淤御国は沈黙を貫く。だって、もう彼の心は此処には無いから。

彼は決めてしまったのだ。自分の愚かさが招いた事態を、全て自分だけで受け入れると。其処に介入は要らない。夢は大人になると見れなくなる。今、彼は刀剣として、漸く大人になったのだ。

《大人になんてなってない！そんなの…只の自己中心的思想だ！》

到頭此処まで来てしまった。訪れてしまった。

さあ始めよう。最終章を。呪われた刀の最期を。

茉莉守淤御国は、愛登岸で立ち尽くしていた。