６７ 夢の中で 海翔side ページ32
………何だ、此処は。
ふと気付くと、俺は青空の広がる本丸に居た。本丸の縁側に座っていた。
賑やかな刀剣の声が聞こえない。本丸の庭の木々も、まだ生え始めたばかりで未熟だ。何というか……殺風景。
此処は夢の中か？俺は夢の中で、この本丸に居るのか？疑問ばかり浮かぶ中、取り敢えず探索を試みた。俺は徐ろに立ち上がり、足を動かした。
俺の足音だけが響いている。後は、寂しい鳥の囀りかな。強いて言うならば。この本丸には刀剣は居ないのだろうか？そもそも、この本丸は誰の本丸なのだろうか？如何して俺は、この本丸に居るのだろうか？そんな事ばかり考えて、そろりそろりと歩いていた。
瞬間。
とてとてとて、と、足音が聞こえた。
誰が居るのか、と身構える。丁度そこは曲がり角だった。曲がり角から誰が出て来も対処出来るように、俺は構えの姿勢をとった。これでも、そこそこ体術は身についているんだ。
そして、やがて足音の主が、俺の目の前に現れた。
俺だった。
足音の正体は、俺。幼い頃の俺だった。幼い、と言っても、中学か高校か、その位の歳の俺。然もその俺は、今の、この大人の俺の身体をすり抜けて、まるで気付いていないかの様に通り過ぎて行った。つまり、今のこの俺の身体は、幽体離脱の様に透明って事だ。
俺はそれを良い事に、少年である俺の行く先を追った。如何やら本丸の間取りを把握出来ていない様で、右往左往ばかりして、漸くとある部屋に辿り着いた。
恐らく、其処は審神者部屋なのだろう。そして、それを見て漸く気付いた。
此処は、昔の俺の本丸なのだと。
今も昔も変わらない審神者部屋の襖。匂い。俺が覚えていない訳がない。俺は、過去の俺と、過去の本丸を見ているんだ。
こんなに静かで、俺が迷って右往左往している時期…と言えば、俺が審神者に就任してすぐの時なのだろう。
そうこう考えているうちに、少年の俺が審神者部屋へと入って行った。生憎襖は閉められてしまった為、俺は襖の前で会話を聞こうと聞き耳を立てる。
少年の俺と、別に声が聞こえる。会話は楽しげだった。きっと初期刀なのだろう。初期刀という事は……。
駄目だ。何故か急に頭が痛くなって、物事が考えられなくなった。俺は迫り来る酷い頭痛に苦しみながら、次第に蹲った。
その時、脳内で声がした。少しずつ、その声は鮮明になっていく。俺は激しい頭痛と共に、意識を失った。
「死なないで！あるじさん！」
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