６０ 和睦サンバ ページ24
海翔の誕生日、前日。
刀剣達は海翔にバレない様、日々を過ごし着実と準備を重ねて来た。それは左文字兄弟も同じで、取り敢えず一段落ついた３振りは、縁側でゆったりと過ごしていた。
「…」
実は、あの喋る薙刀と遭遇してから、江雪左文字はずっと何かを考えている様だった。
淤御国の刃生を知った上で、再度あの言葉を思い返してみる。
『普通に会話を聞いていただけだ。ほらこんのすけ…だっけか？そいつを介しての会話で聞いてたんだ。それに俺、一度こっそり政府に忍び込んで、声とか持ってる刀剣とか？調べてたからさ』
淤御国の刃生は、御世辞にも良かったとは言えない。あの薙刀は執拗に淤御国に執着し、戦いたいと言っていた。茉莉守淤御国のことを知っているとは、如何いう意味なのだろうか。刃生？それとも別の［何か］？
そう。江雪は考えていた。あの過去であれば、淤御国にまた別の［何か］が有っても不思議ではないのだ。それが発動する前に、海翔には淤御国を救って貰わねばならない。勿論、出来る限りなら自身も協力するが。
それに────
そんな思考を巡らせていると、ふと、隣にいた宗三と小夜の冷たい視線が感じ取れた。江雪に向けてではない。江雪は、視線を向けられている者の方を２振りと同じく見つめた。
「はぁ……主…」
「一体何をしているの、貴方は」
「よっ、ほっ！如何だ！コレが俺の編み出した新技！【和睦サンバ】だ！」
「サンバ……？？」
視線の先には海翔が居た。海翔は腰をフリフリしたり腕をぶん回したりして、サンバ？を踊っている。聞き慣れない単語に、３振りは首を傾げる。
「サンバはな、ブラジルのアフリカ系住民から生まれた、舞踏音楽の事を言うんだぞ！」海翔はえっへん、と、胸を張って言った。
「あの、主は……明日に向けて準備は……？」
「ん、明日？明日は明日の風が吹く！」
「…あぁ…これは手遅れの様ですね……」
その時、３振りは、［海翔は変な所で馬鹿で自身の誕生日すら覚えていない奇人審神者］だという事を察した。
「それよりも、お前らも踊らないか？楽しいぞ！サンバ！テンション上がるしな！」
「……否、僕は遠慮しておきます……」
「僕も……主だけでやってたら…？」
「和睦サンバ……良い響きではないでしょうか…」
「兄様……！？」
その後、海翔と共に一日中和睦サンバを踊る江雪と、それに巻き込まれた宗三と小夜が目撃されたとか。
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