５８ 審神者である前に NO side ページ22
刀剣男士達も海翔も、淤御国の話を黙って最後まで聞いていた。物として望まれぬ形で使われてきた淤御国。二重刃格が生まれたのは、きっと、そんな呪いを背負い続けた淤御国が作り出した唯一の拠り所だったのだろう。
淤御国は喋り疲れたのか、そのまま寝息を立てて寝てしまった。海翔と新撰組の６振り達は、淤御国を部屋へと運び寝かした。取り敢えず全振り解散し、それぞれの持ち場に戻ることとした。
途端に、海翔の服の裾を、乱が少しだけ引っ張った。海翔は勿論気付き、話しかける。「如何した？乱」
「あるじさん……ボク……淤御国さんの気持ちになって考えてみたんだ…‥。そしたら、怖くて怖くて……」
「乱……」
「大丈夫だ。俺は絶対に淤御国に起きた様な事をしない。刀剣男士全振りが楽しく毎日を過ごせる様、全力で頑張るから」海翔は強い決意を宿した目で乱を見つめた。「初期の時に俺が言った言葉、覚えてるか？」
乱は俯いていた顔を上げた。海翔が初期の頃に放った言葉は、余りに阿呆らしく、海翔らしく、そして、笑える程の愚かな言葉だった。
然し、あの言葉を放った後の海翔は、正に有言実行のそれだった。乱はずっと見てきている。乱はずっと知っている。海翔は裏切らない。審神者である前に、１人の人間で、儚き命を持つ者。
何度乱が、彼の老いていく様を想像したか。その度に頭から打ち消し、頭の切り替えをした。今を過ごす事を大切にしようと、それを無理やり念頭に置いて過ごしてきた。
あるじさん。ボクはあるじさんの事が大好きだよ。ボクの審神者はあるじさんだけ。ボクの主はあるじさんだけ。
乱に留まらず、何振りもの刀剣が、海翔を好いている。心から大切に思っている。信頼している。
「乱ー！ちょっくら用が有るんだが、良いかー？」その時不意に薬研の声が聞こえた。薬研は手を大きく振って乱を呼んでいる。「今行くよー！」乱もそれに大きな声で答え、再度海翔の方を見た。
「それじゃ、あるじさん。行ってくるね」
「おう！喧嘩はするなよ？」
「しないよ〜。子供じゃないんだから」
そう言うと、乱は薬研の待つ方へ走って行った。それを慈しみのある笑顔で海翔は見送る。
海翔の躰に、再び異常が生じている事を、誰も知らない……？
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