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｢これは……意外やな｣
｢……こんな時間にお客さんなんて聞いてへんねんけど。帰って？｣
｢それはすまんなぁ、けどこっちも仕事や｣
突然の闖入者はナイフを手で弄びながら愉快そうに笑う。もしや昼間の連中の仲間だろうか。それにしては随分レベルが違うように見えるのだが。
……私から動くべきではない。相手の勝ちは私を倒すことだが、私の勝ちは倒されないことだ。動揺はまだ抜けないが相手だって多少なりとも動揺している筈である。
これは勝利を求める戦いではなく、敗北を求めない戦いだ。負けなければそれで良い。相手を倒せようとも倒せなかろうとも相討ちしようとも、私だけが倒れなければそれで私の勝ちなのだ。
逃げ切られれば、勝ち。
｢来ぃや、私ら殺すんが仕事なんやろ？標的は目の前やで｣
｢……ほったらかして残りの二人先片付けるのもありなんやけど、それじゃつまらんよなぁ｣
｢そもそもさせたるとでも？｣
｢思わんわ。……それに、戦う方がおもろそうやしな！｣
言うが早いか男は私に迫り来る。武器はナイフ、二刀流。リーチは短いがおそらく両刃のものだろう。例え投擲されても躱せるように腕の動きには常に気を配っておかなければならない。
相手の背が高く、身体が大きいのは得だった。それはつまり動くのにそれだけ時間がかかるということなのだ。
左右からのナイフ攻撃と、蹴りへの対処。どちらもをいっぺんにやるのは決して簡単なことではないが逆に言えばその程度。隙を見て胴を殴ることくらいは出来る。
｢……っ！？｣
なんて、甘かった。
私の拳よりも相手の切り返しの方が速いなんて誰が考える？切られた手首から血は出ていなかったが、それでもとんでもない動体視力。
気を抜いてカウンターなんざ狙っていてはこちらが狩られて終わるに違いない。
｢が、あぁ！？｣
｢考え事しとったら持ってかれんで、命｣
突如として視界が真っ赤に染まる。切られたのは眼？否、きっと瞼だ。傷口が空気に触れてひりひりと痛み出した。だがそんなものに気を取られている暇などない。
……視界が使えへんの、悪いことばっかやないなぁ。耳と頭がよく回る。
眼以外の感覚が強化されているのだろう。微かな風切り音はナイフの威力と位置、角度諸々を全て正しく教えてくれる。少しずつ少しずつ、壁際へと下がる。こつんと踵が壁に当たった瞬間、そこにあるバケツを力のままに蹴り上げた。
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