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ビスケットとチョコレートの詰まった木編みの籠を片手に石畳を歩く。私はこの国では別段珍しくもない異邦人な訳だが、そうはいっても流石に和装だと目立つようで。おそらく私の薄紫の髪や金の瞳も人目を惹く一因となっているのだろう。
途切れることなく向けられ続ける視線は決して愉快なものではないのだが、袴以外持っていないのだから仕方なかろう。
それに初めて訪れた店なら観光客と勘違いしておまけをくれることがよくある為、中々悪いことばかりではないのだ。
「……あっ、と」
ちゃりんと鳴った音に振り返って見てみれば、鈍く輝く四ペンス銀貨がそこに落ちていた。
周りに人はいないし、落としたのは私で間違いないことだろう。だがわざわざ二十五分の一ポンドの為だけにしゃがむのもなんだか億劫だった。
どうせさっきの店でもビスケットをおまけしてもらったことだし、そのツケだと思えば別に構わないと思えてくる。
「まぁ、いいや」
何となく、そう思ったから。それ以外の言葉ではとても説明できないようなこの感覚。
でも何だか心地が好くなって、思わず緩んだ口角をそのままに家路を辿る。誰かが喜んでくれたならそれで良い。
着いた我が家に灯りはついていなかった。しかしそれもいつものこと。世間に胸を張れる仕事ではない以上、誰かしらから怨恨を買うことも少なくはない。せめてもということで、見ただけでは在宅中か否かが判別出来ないように昼間は灯りを消しているのだ。
「兄貴ー、帰ったよ」
「おかえり、つかさん。どうやった?」
「いつも通り。行くときビスケット持ってってね」
「はぁい」
今回の任務で兄貴が殺すのは子供たちだ。普段は大人ばかりである為に彼が年下を殺すところは見たことがない。が、まぁその程度の差違で動きが鈍ることはないと思う。
私が兄貴に助けられたのも、その子達くらいの歳だったっけ。買い物のついでに様子見をと少しばかり覗いてきたのだが、楽しそうではあるのだがやはり痩せてはいた。
「兄貴」
「なんや?」
「今回、私も行くね」
「……珍しいなぁ、けど行けるん?」
「大丈夫」
孤児は他人に迷惑を掛ける。だが自ら望んで孤児になった子なんて一人だっている訳ないのだ。流石に葬ってあげることは出来ないが、お菓子のお供えくらいはしてあげたいのである。
私、子供には甘いのかも。自嘲気味に笑った私を兄貴は不思議そうに見ていた。
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