73 (回想・小学1年生 その1) ページ13
俺の両親は喧嘩をしない。
口論は勿論、手が出ることもない。
だからと言って仲が良いわけではなく、むしろ夫婦仲は最悪だった。
「そらる、これからどうする?」
俺は兄と一緒に自室にいた。
リビングは両親の威圧的な無言で酷い空気になっており、兄はとばっちりを食らう前に俺を連れて逃げてきたのだ。
「どうする……って?」
「父さんと母さん、どっち側につくか」
兄は宿題のノートに鉛筆を走らせながら話す。
「どういう意味?」
「もう家族四人で仲良くやっていくのは無理だ。きっと別れの時が来る。例え今すぐじゃなくても」
淡々とした声から、兄の感情は読み取れない。
その声調からは冷徹さが醸し出されている。
「お前はどっちについていく?」
「……」
「質問を変えようか。お前は父さんと母さん、どっちが好き?」
回転椅子が半回転する。
無感情な瞳と目が合う。
「どっちも好き。……それじゃ駄目?」
それでも俺は選べなかった。
「……いや、それが正解だ。それが一番、幸せだってことだから」
兄は切なそうな眼差しを俺に向ける。
その一瞬だけ、兄は微かに笑っていた。
「兄さん」
「何?」
「もう、元には戻らないのかな?」
俺は泣き出しそうになるのを必死に堪える。
「一緒にご飯を食べたり、休みの日に出かけたり……もう、二度とできないのかな?」
わずかな沈黙の後、兄はふっと息を吐いた。
「そんなしょんぼりしてる弟に、『できない』なんてきっぱり言える兄はいないよ」
くしゃくしゃと、兄は俺の髪を撫でる。
「まだ大丈夫。だから、泣かないで」
俺は顔を上げ、零れた涙を拭って頷いた。
――「まだ」大丈夫。
その言葉の意味を、この時はまだ理解していなかった。
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さっぽん - 次のお話を楽しみにしています!! (2021年5月19日 21時) (レス) id: 6727f20ffd (このIDを非表示/違反報告)
凛音(プロフ) - すごく楽しませてもらっています!病み系のものが少ないのでできれば長期化してほしいです! (2020年8月14日 3時) (レス) id: 19593b8502 (このIDを非表示/違反報告)
恋花レンカ - すごくドキドキします!続きが楽しみです! (2020年5月4日 11時) (レス) id: 434c29f1e9 (このIDを非表示/違反報告)
ときあめ(プロフ) - めちゃくちゃ鳥肌たちました……どこか薄暗いような、気が滅入るようなお話が大好きで、この作品を読んでこれだ!感がすごかったです笑続きを楽しみにしてます。 (2020年1月26日 14時) (レス) id: 5d5f606a06 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:マミカ | 作成日時:2019年12月5日 14時