人畜無害で健全な恋愛 【３】

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土間にそらるの靴は無い。

もうとっくに夕飯時を過ぎているのに、どこで道草を食っているのだろう。

八時過ぎを指す時計を一瞥し、買い物袋をテーブルに降ろした。



早く帰って来ないかな。

僕にしては珍しく、面白い話ができそうだから。

一刻も早く聞いてほしい。

今すぐにそらるの反応を見たい。

一分一秒が惜しいほど、僕の気持ちは昂っていた。



重みから解放された肩を回していると、胸ポケットに入れていたスマホが鳴り始める。

僕は発信元を確認し、顔を綻ばせながら応答ボタンを押した。


『お前！！ 一体何のつもりだ！？』


スピーカーから溢れ出す、凄まじい勢いの怒声。

予想を反する迫力に、一瞬足が竦んでしまった。


「……何の話？」

『とぼけるな！！ お前が一番分かってんだろ！？』


通話の音量を下げる。

このままじゃ鼓膜を破られかねない。


「まふてるは良い子にしてた？」


僕は平然と問いかけた。


『……』


無言が続く電話口に、僕の笑い声だけが響く。


「バースデープレゼントだよ」


僕にしか贈れない、とっておきのプレゼント。

そらるとまふてるの力を借りて、ようやく届けることができた物。


「誕生日おめでとうって言っておいてよ。僕が会いに行ったら大惨事でしょ？ 会えるものなら会ってみたいね、九歳のAちゃんに」

『……』


ブツッと音を立てて通話が切れた。

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