【d!】ストーカーな君【zm】 (ページ8)

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昔話ページ8

side-zm

始めてAと会ったのは、いつも通りの変わり映えしない普通の日で、これまたいつもの街中だった。

「これ、落としましたよ？」

俺の肩をトントンと叩き、声を掛けてきたのがAだった。
彼女の手にはハンカチが。どうやら俺の落としたハンカチを拾ってくれたらしい。

「あ、ありがとう…」

急な事で上手く声が出ず、しっかり返事ができないまま、彼女は踵を返して俺とは逆方向へと歩いて行った。

綺麗な人だった。だけどどこか苦労人なのかな…と、初対面の俺にも思わせるような雰囲気を持っていた。

綺麗な声だった。少し掠れていて、落ち着いた高さの声だった。

その時は、ただそれだけで終わって、少し経てば彼女の事は忘れていた。

ー

2回目、彼女に会ったのは電車の中だった。

いつもの時間の電車に乗り込み，いつも乗っている車両に足を踏み込めば、彼女の姿があった。

その日その時彼女を見て、ハンカチを拾ってくれた女性の存在を思い出した。

つり革を掴み、もう片方の手には本が開かれている。

俺は彼女の隣に立った。
彼女は器用に片手でページをめくり、目で文字を追っていく。

少し伏せられた目に、それによってできた睫毛の影が落とされた頬に、俺は目が離せなくなった。

運良く彼女は本を読んでいてこちらに気付いていない。

俺は彼女が電車を降りるまで、ずっとそうしていた。
最後まで、彼女は俺に気付かなかったし、俺は彼女に話し掛けるような事は無かった。

(そういえば、あの本エミさんが読んでいた本…)

いや、だからどうした。エミさんが読んでいたっていうだけで、俺は読んだ事無いし、それを話題にしようとしても、彼女からしたらただ変な人になってしまう。

エミさんはあぁいう本が好きだった。彼女もそうなのか。それならエミさんと趣味が合いそうだ。

俺も彼女と何か共通点が欲しい…

彼女を電車の中で見たのは、それが最後だった。

ー

当時はまだ、俺はアルバイトをしていた。

3回目、彼女と会ったのは、そのバイト先のコンビニでだった。

「いらっしゃいませー」

真面目なバイトでは無いと自覚済みの俺は、特に感情の篭ってない声音で、客を迎える。
いつもは裏方なのだが、今日は人手が少ない為、接客も担当していた。

そんな日に来たのが彼女だった。

お客さんが彼女だと気付いた時にはかなり驚いた。

…そりゃあもう、挨拶をするのを忘れるぐらい驚いた。