四百九十五話 ページ26
「…誰」
『お初にお目にかかります、山南と申します。
オニーサン何かお困りで?』
「変な奴に絡まれそうなことだけが怖ェが」
『オーケー、我が命に変えても。
その悩み私が取り払ってあげよう』
万事屋金ちゃんの名刺を男性に握らせて彼の発言なんか気にせず強引に話を進める。
なぜかテンションがホストを演じていた時と似通っているがそっちの方がやり易いとかあるんだろう。
全く行動が読めないというより意図がわからないナンパ講座をレクチャーし始めた。
『注意点と言えば見た目だけど…』
Aさんが手を顎に当てて唸り声をあげる。
チラリと盗み見た男性の見た目と言えばボサボサの髪の毛に、どこかで見たことのあるような量産系の着流し。
髭は縦横無尽に生えていて身だしなみにはあまり気を遣っていないのがよくわかる。
悪いところに思わず目が行ってしまいそうになるが、外見を整えれば体格のよさがうまく作用するのではないか。
Aさんはどんなアドバイスをするのか気になり耳を傾けると彼女は投げやりに言い放った。
『ストパーだったら何とかなる!』
「なんで髪質で決まるんだよ!」
『まぁまぁ、ちょっと見てみてって』
全国の天パの人に喧嘩を売るような発言に男性が思いっきりツッコむ。
しかしそのリアクションは予想の範疇というような口振りで、男性の目線が坂田金時と旦那に向くように彼の頭を動かした。
『あれがストパー、あれが天パ。
ね、髪型だけで全然違うでしょ?』
「言われてみりゃ、確かに…だな」
銀時「ねェ、何で俺ケンカ売られてんの?
そしてなんでアイツは納得してんの?」
詩織「旦那、後頭部殴打は押さえてください!」
Aさんの言葉に触発されて今度も天に召させる気満々の旦那を何とか押さえようと試みる。
確かに理不尽なディスりだがこれ以上旦那の株が下がってもメリットはない。
溢れだしそうな殺意に蓋をすると突如男性が辺りを見回し始める。
そして表情を強張らせてAさんへ目線を移した。
「オイ、あの女は……」
男性に連られて私も周りに視線を巡らせる。
すると彼の言う通り、先ほどナンパされていた女性がいなくなっていた。
『ナンパ講座に興味なかったんでしょ』
恨みが込められた男性の視線をものともしないようにAさんが笑顔で言う。
そこで私は今更ながら、万事屋金ちゃんに見せ場を奪われたことに気づいた。
360人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:たこわさび | 作成日時:2023年10月9日 22時