ひとときのあいを【短編集】

□. 鳥谷敬 ページ25

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ふぅ、と吐き出された


淡い紫煙の行く先を


追いかけるように眺めた



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空の色はだんだんと、でも確実に
赤とオレンジのグラデーションに変わっていく


外で会議があったため、上司の鳥谷さんとふたり
車で会社に向かっている
と言うのも、まだ残りの仕事があるからで



「あー…ごめん、煙たいよね」
「いえ、お気になさらずに」



タバコを右手の指で挟んだ鳥谷さん
運転席側の窓を開けて、煙を外に逃がす


長い会議終わりの鳥谷さんは
いつもきちっと着こなしてるスーツを着崩して
ネクタイまで緩めてて
少しだけ覗く鎖骨が色っぽくて
思わず視線を逸らしてしまう



「今日の会議の書類まとめたら帰ろうか」
「そうですね」



鳥谷さんほどハイライトのタバコが似合う人はいないと思うし
袖をまくってハンドルを回す腕に浮かぶ
血管にまで艶めかしさが漂う人だって
きっといないと思う



「定時退社、目標で行きましょう！」
「…それもそうなんだけどさ、」



そう言いつつこっちを向いた鳥谷さんが
ふぅ、と私の顔に煙を吹きかけた


「けほけほ…っ、何するんですか、」


盛大にむせて咳き込む私
きっと涙目なんだろう
そのまま鳥谷さんを軽く睨めば




「ただのマーキング…じゃ、ないから。
意味わかったら、返事ちょうだい」




にんまりと笑った鳥谷さん
白い歯がこぼれるように覗いた

…マーキング？返事？
私の上司は、何を言ってるんだろう

意味がよくわからないまま会社に着いて
気がつけば残業は終わろうとしていた


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さっきの言葉が妙に頭にひっかかって
トイレの個室で意味を調べて
さっきの行動に込められた意味に
胸が震えた


胸だけじゃない
返事をメールで送信しようとしてる
私の指も 心も震えてる


鳥谷さんはずるい

やっぱり私は、あなたに敵わないみたいだ



鳥谷さんに送った返事は



＿＿＿＿＿＿＿＿【私の全てを もらってください】



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タバコの煙を吹きかけた理由

「今夜、あなたを抱きたい」

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□.東浜巨→←□. 京田陽太 ﾘｸｴｽﾄ

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