5話 ページ6
「私はこの遊びが好きです。だから貴方に、私のことを知って欲しくない」
踏切のバーが降りてきた。カンカンという音は相変わらず途切れ途切れで、真とAのようである。
Aは踏切に近付く。また子猫を投げ入れる気なのだろうか。
真の脳に、一抹の嫌な予感が走る。
「待て!!」
真はAの腕という命綱を強引に掴み引っ張った。
「お前今、飛び込む気だったろ」
電車は何も奪わずに踏切を抜けていった。Aは、ランドセルを背負ったままだった。
「良く分かりましたね。
人生がつまらなくなる位なら、貴方の人生にちょっとしたサプライズを届けてあげようと思ったのですが」
蝉は大人しくなり、風もやみ、太陽だけが真達を責めた。真は滴り落ちる汗と共に、ぶっきらぼうに言葉を吐き出した。
「俺の人生は面白くしなくていいんだよ。てめえ、折角俺が救ってやろうってのに」
素直ではない言い方だった。
彼は、自分と同じか、自分よりもっと道を踏み外しそうな彼女を救いたかった。だから、真が言って欲しかった台詞を言ってやろうと思ったのだ。
真の周りにいたのは、ご機嫌取りの優しい振りをした大人達だけだった。
強く叱られたい、ぶん殴られて、分かりづらい馬鹿みたいな説教を受けてみたい、と思っていたのは事実である。
彼女がそうかは知らないが、真が今できるのはこれしかないのだろう。彼女を救うということは、過去の自分を救うことのような気がした。
「俺は、てめえを見てると昔の自分を思い出すんだよ。恥ずかしい黒歴史諸共な。てめえは俺のトラウマそのものだ。
見ていて滑稽だと思えばそれは自分のことで、見ていて可哀想だと思えばそれも自分のことだ。
てめえを見てるのが嫌になる。かと言って逃げれば、罪悪感なのかてめえは頭から離れやしねえ。
だから、自己満足とちょっとの良心で、俺はお前を救う。
このくそ暑い時期に、このくそ面倒臭い問題を俺が頑張って解決しようとしてたんだ。それを台無しにしようってか?
てめえは良かれと思って飛び込もうとしたんだろうが、俺は死なれちゃ迷惑なんだよバァカ!!
素直にはいありがとうございますっつって俺の言う通りにしてろ!」
Aの腕を掴んだまま、蝉の代わりのように叫んだ真をAはただ見つめていた。
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ルナ(プロフ) - 番外編とか続編とか作ってみて下さい!! (2020年5月18日 18時) (レス) id: 9be15952a3 (このIDを非表示/違反報告)
雫鶴鳩 - 更新頑張ってください!! (2017年11月12日 23時) (レス) id: 86c88d0ffc (このIDを非表示/違反報告)
氷留痲 - 追加・・・更新頑張って下さい!! (2017年2月6日 0時) (レス) id: a6e8c41ba4 (このIDを非表示/違反報告)
氷留痲 - 面白い!貴方は花宮+赤司のIQのお方ですか!?((尊敬 (2017年1月22日 20時) (レス) id: a6e8c41ba4 (このIDを非表示/違反報告)
夢喰。(プロフ) - 内容がミステリアスで思わず魅入ってしまいました。更新、気長に待ってます( ´ ▽ ` )ノ (2016年12月28日 21時) (レス) id: bb18efc351 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:魅乃瑠 | 作成日時:2016年6月19日 23時