1話 ページ2
花宮真は、今日、いつもより少し近道して家に帰ろうとしていた。
踏切には嫌な思い出しかないので今まではその道を避けて通っていたが、いつまでも怖がっているのは自分らしくないし臆病である。
少し脇道に入り、途端に静かになった辺りを、それでも鬱陶しそうに睨む真。
…踏切が見えてきた。
人があまり通らないため、草が生え放題でとても綺麗とは言えない踏切だ。丁度、電車が来るようだった。途切れ途切れに高い音が鳴り、バーが下がってくる。
仕方がないので立ち止まる真の横に、いつの間にか赤いランドセルを背負った少女が立っていた。真はその気配の薄さに驚きつつ、嫌悪感を覚えた。
少女の方は、真を一瞥するだけで、何も気にしていないようだった。少女は赤いランドセルの中を探り始める。
真が様子を伺うと、赤いランドセルの中には教科書ではなく、子猫が詰め込まれていた。
真は自身の幼かった頃を思い出した。それは、真が踏切を通りたくない理由の一つだ。
真は、猫で、踏切で、遊んでいたことがある。
少女は子猫の首を無理矢理掴んだ。掴み方が雑だったのか、子猫はぎゃいぎゃいと悲鳴を上げた。
電車が近付いてくる。
少女は踏み切りに歩み寄る。
・・・・真は戦慄した。
「お前、待て・・・・!」
少女は踏切に子猫を投げ入れ、猫が着地する頃には、嫌な音と共に猫はこの世から消えていた。その"遊び"は、まさに真が幼い頃やっていた遊びだった。
「小学生の女の子が、こんな事するなんて思いもしなかったでしょう?
私、その表情好きかも知れないです」
少女は心のこもらない笑顔を、真に向けた。
「お前・・・・なんで・・・・」
「何ですか? もしかして貴方、この遊びのご経験が?善い人ぶっているんですね、私と同じです。
貴方もやりますか? いえ、冗談ですが。
その表情、恐らく何かトラウマなのでしょう。すいませんね、嫌なものを見せてしまって。
でも貴方がいつも通り帰宅していれば、こんなもの見なくて済んだのですよ」
思いの外饒舌な少女は、最後の方は怒ったような口調で真を責めていた。
「やめろ、こんな事。嫌な思いしか残らないから」
「根っからの悪という訳では無いのですね。止めさせたいのなら、また来たらどうです?」
少女はにたりと笑うと、気付いた頃には姿を消していた。
踏切のバーが上がった後も、真は暫く動けなかった。
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ルナ(プロフ) - 番外編とか続編とか作ってみて下さい!! (2020年5月18日 18時) (レス) id: 9be15952a3 (このIDを非表示/違反報告)
雫鶴鳩 - 更新頑張ってください!! (2017年11月12日 23時) (レス) id: 86c88d0ffc (このIDを非表示/違反報告)
氷留痲 - 追加・・・更新頑張って下さい!! (2017年2月6日 0時) (レス) id: a6e8c41ba4 (このIDを非表示/違反報告)
氷留痲 - 面白い!貴方は花宮+赤司のIQのお方ですか!?((尊敬 (2017年1月22日 20時) (レス) id: a6e8c41ba4 (このIDを非表示/違反報告)
夢喰。(プロフ) - 内容がミステリアスで思わず魅入ってしまいました。更新、気長に待ってます( ´ ▽ ` )ノ (2016年12月28日 21時) (レス) id: bb18efc351 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:魅乃瑠 | 作成日時:2016年6月19日 23時