∬037 ページ39
濡れた髪の先から、まるい雫がぽたりと落ちる。
降りやまない雨――葉っぱの傘の下で、二人はじっと息をしていた。
ディオの少し長めの襟足が、金色につややかに光り、それは濡れている獅子のタテガミにみえた。
なんだか、ディオは高貴な雰囲気をまとっている。
「そうだわ、ディオ。あんたは本当は王家の生まれなのよ!」
王家の生まれ、その言葉にディオの耳がピンとそばだつ。
Aは「それに――」と言いながら、ディオの冷たい耳たぶに触れた。
「左耳の、三つに並んだほくろ――これは王の血統ね」
「い、いきなり何を言い出すんだ君は」
Aのストレートすぎる声を聞いていると、首のうしろあたりがくすぐったくなる。
心がフッと羽になる気がする。
「ディオの魂はきっと王さまだわ!」
「……!!」
ディオは焦ったように、Aから視線を外し、すぐ前をみた。
そうして、抱えた膝の上に突っ伏しながら、ぼそっと言う。
「王か……そんなふうに言われるのは、生まれて初めてだ」
なんともいえない気持ちが、シュワシュワと心をかけめぐる。
――(自分はずっと、あいつ(父親)の血が入っていることを思い出しては恥じ、同時に呪ってきた。だが、こいつの瞳は、光のなかに彫られた『おれの魂の形』を映している!)
――(今までおれは、そんなふうに自分を見てくれる誰かに会ったことがあるだろうか? 町のやつらが向けてくる羨望の眼差しなどではない。こんなにも、ストレートな眼差しで……)
「ディオが王さまで、私は王女さま」
Aは濡れた髪をかき分けて、自分の耳たぶを見せてきた。
「真珠はね、東洋では王の証なのよ」
「へえ、王の証か」
「そうよ、この耳飾りは、亡くなった母から受け継いだ王女の証なの」
ディオは一瞬、自分の母親の形見(ダリオに売り払えと言われたドレス)のことを思い出して、Aをちょっとだけ恨めしく感じたが、そんな気持ちはすぐに泡のように沈んでいった。
「ねえ、似合ってる?」と首をかたむける彼女が、他人ではなく、妹のように可愛く思えたからだ。
「ああ、よく似合ってるよ」
「ふふっ、ありがとう」
彼女の笑顔を見つめているうちに、ディオも自然と口元をゆるめていた。
ハッとする。
――(もしかして、おれは恋しているのか?)
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推しの命は私の命 - ジョナサン空気( ゚இωஇ゚) (10月15日 15時) (レス) @page43 id: 0046fb2d1c (このIDを非表示/違反報告)
油電(プロフ) - 黒猫歳花さん» コメありがとうございます…!そう言っていただけて嬉しいです(*´ω`)これからも、胸に刺さるキュンキュンを目指しながらお送りしますッ (2018年5月4日 23時) (レス) id: 95fd139937 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫歳花(プロフ) - はじめまして、この作品を読んでいるとディオにキュンとしっぱなしで楽しいです!これからも頑張ってください(*^▽^*) (2018年5月4日 20時) (レス) id: ae43b29bb1 (このIDを非表示/違反報告)
油電(プロフ) - おバカな傀夢さん» ありがとうございます笑 ディオのキャラが崩壊していないか不安でもあります(汗)お話も中盤にさしかかって参りました…! 引き続きよろしくお願いします(*^-^*) (2018年5月4日 12時) (レス) id: 95fd139937 (このIDを非表示/違反報告)
おバカな傀夢(プロフ) - おおっ!?やっと…やっと気が付いたかッ!ディオ〜!!大好きだ〜!!油電様も大好きです笑 (2018年5月3日 22時) (レス) id: 5ff30031ff (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:油電 | 作成日時:2018年4月1日 21時