3.初めての注文 ページ3
「あの、お客様?……昨日はうどんを注文すると仰っていましたよね?」
「……………、そうだっけ?」
少しの間を置いて、呟かれた答えに「えぇ!?」と思わず声が漏れる。
ハッ!!として、口を閉じると慌てて頭を下げた。
「失礼いたしました!!」
「いいよ。どうせすぐ忘れるから。……うどんのことも、忘れたぐらいだし」
「え?」
わ、忘れた?
昨日の今日で??
ポカンとしている私に、目の前の彼が続ける。
「だから、君も気にしないで」
「えと、……はい。………??」
自分が忘れっぽい事は理解しているようだ。
このお客様が不思議な人に思えるのはそのせいかも知れない。
前に女の子に「誰?」と言ったのも、彼女を本当に覚えていなかったか、或いは忘れることを分かっているから、冷たくあしらったのかも……
この人の事、何も知らないのに勝手に決めつけていた。
「申し訳ありませんでした。…では、ふろふき大根とご飯を───」
言い掛けた私の言葉を彼は遮った。
「いや、…ふろふき大根とうどんを頼むよ」
注文通り、私はふろふき大根とうどんを承った。
何時もとは違う組み合わせに、厨房の父も気付いたのだろう。
「本当にこれで合ってるのか?」と確認されてしまったぐらいだ。
「お待たせしました!」
初めて、このお客様にうどんを食べてもらう。
ただそれだけの事なのに何故か緊張する。
ズズッと麺を啜る音。
店内がすっかり落ち着いているのを良いことに、私は彼に見とれる。
いつの間にか、隣にはミチもいて、姉妹で彼の事をを眺めていた。
「お味は、いかがでしょうか?」
「……うん。………普通に美味しい」
呟かれた言葉にホッとして「良かったぁ」と息が漏れる。
ミチも「やったー!」と喜んでいる。
「おおげさだな」
「いいえ!いつもふろふき大根しかし頼まないお客様にうどんを食べてもらって“不味い”なんて思われたら、もう二度と来てもらえない可能性だってありますから!!」
少し力を入れて話したら、今度は「煩いよ」と言われた。
「すみません、つい……」
途端に恥ずかしくなる。
いつも決まったやり取りしかしないお客様の彼と、今日はいつもより話している。
それだけなのに、どうしてか心が弾んでいた。
58人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
月見(プロフ) - 香恋さん» いつも読んでくださり、ありがとうございます!褒めて頂いてとても嬉しいです(*^^*)ゆっくりになりますが、更新頑張ります!! (6月26日 7時) (レス) id: 3e917b4f85 (このIDを非表示/違反報告)
香恋 - 月見さんの久しぶりの鬼滅作品…!!!しかも無一郎くん( ; ; )嬉しいです!!刀鍛冶の里編ロスを埋めて下さいます泣 相変わらずキャラが喋ってる様に台詞が聞こえてきます。続きとても楽しみにしています☺️ (6月25日 23時) (レス) id: da7568f49d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:月見 | 作成日時:2023年6月8日 22時