1.不思議なお客様 ページ1
「A、3番さんのうどんとそば!それから5番さんのうな重!!」
母の指示を聞いた私は「はい!」と返事をしてそれらをお盆に乗せると動き出す。
「お待たせしました!」
愛想よく笑顔でお客さんに対応して、注文された食事を運び終わると、「お嬢ちゃん!注文!!」と少し離れたところから声をかけられる。
「はーい!只今!」と返事をしてまた動き出す。
忙しいお昼時と夕方は何時もこんな感じだった。
家族経営の食堂。
そこで私はお爺ちゃん、お婆ちゃん、お父さん、お母さん、弟、そしてまだ幼い看板娘の妹の5人で忙しない毎日を送っていた。
そんな風にガヤガヤした店内も、お昼を少し過ぎると落ち着いてくる。
その、何とも言えない微妙な時間になるとやってくる不思議なお客様がいた。
「………ふろふき大根とご飯一つ」
物静かな彼は半年ほど前からこの食堂に通うようになった、と思う。
いつもカウンターに座って必ずふろふき大根とご飯を頼む。
毎回、私が対応しているけれど、今のところ他のご飯を注文した事はない。
毎日同じものばかり頼んで飽きないのかな?という疑問は沸いてくるけれど、お客さんが食べたいものを提供するのが私たちの仕事だ。
「畏まりました!」
ニコッと笑いかけても無反応。
それどころか表情一つ動くことがない。
学生さんかな?
でも、少し変わった黒っぽい服装に長い髪。
体は小柄で、顔立ちからして私より年下に見える。
それでもよく見れば、綺麗な白い肌に綺麗な瞳。
年頃の女の子が黙っていなさそうな見た目だ。
それでも彼がちやほやされないのはきっと、話しかけないでと言わんばかりに放たれたオーラのせいだろう。
うちの食堂は少しだけ甘味も置いているから、お昼を過ぎたあとは若いお客さんがやってくる。
最初の頃は、甘味目当ての女の子で彼に気を取られているお客さんが何人もいた。
ある日、勇気を振り絞って彼に話しかけた子がいたのだ。
「あのっ!……毎日この時間に来てますよね?私も毎日この時間に来てるんですけど、良かったらご一緒しませんか?」
きゅっと強く握り締められた手。
高揚した頬。
カウンターの奥でその様子に気付いてしまった私までドキドキした。
それなのに彼と来たら…………
「………誰?悪いけど、話しかけないでくれる?」
「……………。」
毎日同じ時間に店内にいるのに認識すらしていないという、あまりにも辛辣な事実を女の子に突きつけたのだった。
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月見(プロフ) - 香恋さん» いつも読んでくださり、ありがとうございます!褒めて頂いてとても嬉しいです(*^^*)ゆっくりになりますが、更新頑張ります!! (6月26日 7時) (レス) id: 3e917b4f85 (このIDを非表示/違反報告)
香恋 - 月見さんの久しぶりの鬼滅作品…!!!しかも無一郎くん( ; ; )嬉しいです!!刀鍛冶の里編ロスを埋めて下さいます泣 相変わらずキャラが喋ってる様に台詞が聞こえてきます。続きとても楽しみにしています☺️ (6月25日 23時) (レス) id: da7568f49d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:月見 | 作成日時:2023年6月8日 22時