無感情ブラックⅡ【刀剣乱舞】 (ページ8)

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.乱藤四郎

　しんと静まり返った廊下に、コツコツと二人分の足音が響く。軽快に革靴を鳴らすボクの隣、薄暗い照明の下で、くすんだ空色がわずかに揺れた。

「乱、おまえ、あの審神者のことが気に入ったんだろう」

　ぴた、と足音がひとつ止まる。やや遅れて、もうひとつの足音も止まった。ボクは顔を上げて、ぱちりと目を瞬かせる。いきなり何を言い出すかと思えば。

「たしかにそうかもね。だってあのひと、あるじさんとそっくりな目をしているんだもの。でも、だからなあに？いち兄」

「いや……よかったのかと思って」

「？どういう意味？」

　ボクが問い返すと、いち兄はほんのすこし眉を下げて、「おまえは実にしっかりしている」と苦く笑った。うすく、不健康なくちびるがそっと弧をえがく。

「私はね、何もおまえたち兄弟のことを、何も出来ない子猫のような存在だと思っている訳では無いんだよ。心が、身体が、ひどく傷ついて、無防備な存在になっているから、私はあの子たちを守っているんだ。……本来、あの子たちは、私に護られるような存在じゃないことを、私は知っているけれども、あの子たちは、今はとっても……弱いから。だからあんなに、私はあの子たちに関して過剰な反応をするんだ。そこは、乱もわかっていると思うけれど」

　わかっている。たしかに、わかっている。

　本来はまもり刀であるはずのボクたちを、こんなに弱い存在に変えてしまったのは、紛れもなくあるじさんで。いち兄はそれを、ひっしになってかばって、守ってくれている。ずお兄も、ばみ兄も。

「……だけれどおまえは、おまえだけは、私の庇護下をはずれ、自由に動き回るだけの力をもっている。私は、おまえには好きな道を歩んで欲しいと思っているんだ。その力があるのだからね」

「……」

「私は、自分が間違っているとは思っていない。けれども、正しいとも思っていない。……あの薬研も、審神者も、きっとそうだろう。……乱、おまえがあの審神者をすきだと思うんなら、おまえはあちらにいきなさい。おまえは、私たちの中で唯一、ずっと別のものを見ていた男士なのだから」

　そしてふと、いち兄のまなざしがゆるんだ。

「……ということを、私は薬研に言いたかったのだよ。おまえにも、あの場で話すつもりだった。おまえがどちらを選ぼうと、私はその答えを歓迎するよ。兄だからね」

「…………、ボクは……」

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