無感情ブラック【刀剣乱舞】 (ページ10)

今日:1 hit、昨日:9 hit、合計:280,629 hit

(10) ページ10

.

「逃げるぞ!!」

　鋭く飛んだ薬研様の声に、咄嗟に足が動いた。

　見た限り、蔵の出入口はひとつしかない。そっちは鶴丸様がふさいでいる。ならば窓から出るしかないだろう。

　幸い薬研様は短刀だし、あの窓の大きさなら私もギリギリ通れる。

　鶴丸様は太刀だから……いや、細身だから少し微妙だけれど、多分通れないはずだ。

「おっと、逃がさないぜ！」

　薬研様は勢いよく窓に飛びついて、前のめりに外に飛び出した。私もそれを追って窓の縁を蹴る。若干背中が突っかかったけれど、なんとか出ることができた。

　鶴丸様の足は早かった。否、この場合は機動といった方がいいのかもしれない。

　なんにせよ、このままだと顕現したばかりの薬研様では追いつかれてしまう。どうするべきか……

「……、薬研様っ」

「なんだっ!?」

「本丸で逃げ回っても、あちらに地の利があるのは明らか。このままでは追いつかれます。なので、戦場に行きましょう」

「はあっ!?」

「逃げ場はそこしかありません」後ろから近づいてくる足音を感じながら、私は薬研様に訴えた。

　薬研様は少しだけ迷うような様子を見せたあと、力強く頷く。

「わかった。だが、大将は過去に飛べるのか？」

「……原則だと、緊急の際以外は申請して許可をもらわなければならなかったはずです。ですが、今は緊急事態ですから」

「大丈夫そうだな。で、どこへ行けば戦場に行けるんだ」

「母屋の近くです。母屋の近くにある、鳥居のすぐ隣！」

「おし、了解！」

　政府から支給されたヒールが、走る度カツカツと頭に響いた。こんなもの、戦うのになんの役にも立たないじゃないか。邪魔くさくて、角のところで脱ぎ捨てた。

　その靴につまずいたのか、後ろから「うわっ」という声が聞こえた。これで少しは距離が稼げただろう。

　めちゃくちゃに走っていると、開けた場所に出た。朱色の鳥居の隣に、鋼色に輝くゲートが見える。

　ヘンテコな機械をわけも分からずガチャガチャいじると、きらきらと辺りが光り始めた。

　視界の端に、驚いた顔で佇む鶴丸様の姿が見えた。

.