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海を閉じ込めたようなびいどろの瞳が、ぱちりと長いまつ毛を伴って瞬いた。彼女はぎこちない動作でこちらを向くと、ゆるりと歪に頬を歪めて笑った。
「……薬研、顕現したんだ」
「ああ、昨日な」
「びっくりしたでしょ、こんなとこで」
実際は多少事情を知っていたのでさほど驚きもしなかったのだが、それを押しとどめて「まあな」と笑った。今それをいったところで、余計な混乱を招くだけだ。
「いち兄から聞いてはいたけど……新しい人、ほんとに来たんだね。こんなところに来ちゃうなんて、ちょっとかわいそう」
そういって、乱はちょっと肩をすくめた。唇は依然として歪んだままだ。
「それで、何?」
「……何って、何がだ?」
「ふふ、しらばっくれても無駄。これでもボク、この本丸の最古参なんだから。ボクに何か訊きたいことがあるんでしょう?」
唇に人差し指を当てて、ぱちんとひとつウインクをするとようやく歪んだ笑みが和らいだ。適わねえなと横を向いて後ろ髪をかくと、ふふ、と乱が笑う気配がした。
「……この本丸の事情は、大体聞いてる。だがまだわかんねえことだらけなのは確かだ。どんなに取り繕ったって所詮俺たちは部外者でしかねえからな」
「……」
「訊きてえことがある」
「うん。なあに?」
乱は笑って首を傾げた。今度は至って自然な笑みだった。他の奴らに聞かれていないか、ちらりと後ろを見て視線を戻す。真っ直ぐに碧い瞳を見つめると、乱は少しだけ目を伏せた。
「おまえ、どうして普通でいる?」
柔らかなかんばせが、強ばった。
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フキ(プロフ) - 好きです!続きがとっても気になります!! (2022年6月15日 23時) (レス) id: 171aa22f7a (このIDを非表示/違反報告)
高橋かかし(プロフ) - あんこもちさん» アーーッそうでした!万死……、 すぐに修正します!ありがとうございました! (2019年12月7日 12時) (レス) id: ad9f3afa3e (このIDを非表示/違反報告)
あんこもち(プロフ) - 鯰尾と骨喰は元大太刀ではなく薙刀では? (2019年12月7日 11時) (レス) id: 1c5e807086 (このIDを非表示/違反報告)
高橋かかし(プロフ) - ありがとうございます!頑張ります´ω`* (2019年8月2日 13時) (レス) id: ad9f3afa3e (このIDを非表示/違反報告)
0dh38w152yz4d3p(プロフ) - とっても面白いです!更新楽しみにしてます(*^^*) (2019年7月31日 16時) (レス) id: b48a4a1bf4 (このIDを非表示/違反報告)
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